2009年3月23日(月)「しんぶん赤旗」
奨学金返済3カ月遅れ
ブラックリスト化
学生に同意書強要
大学院生、「脅迫的だ」
政府の方針を受けて、日本学生支援機構(旧日本育英会)は奨学金の返済を延滞した利用者を個人信用機関に通報する制度を二〇一〇年度に導入しようとしています。返還が三カ月遅れると“ブラックリスト”に載せられる制度です。ローンを組んだり、クレジットカードの利用が困難になります。同機構は、いま順次利用者に「同意書」を求めています。これに応じなければ奨学金が受けられないというやり方は「教育基本法が禁じる信条や経済的地位による差別にあたる」との声があがっています。(伊藤悠希)
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二〇〇九年度日本学生支援機構の奨学金ガイドには次のように記載されています。「奨学金の貸与を受けるには、個人信用情報の取扱いに関する同意書を提出しなければなりません」「同意書の提出をしなかった場合には奨学金の申込資格はありません」。前年度まではなかった記述です。
「奨学金がないと大学には通えない。同意書を書くしかなかった」と話すのは京都の私立大学に通う一回生のAさん。両親は離婚し、父親と暮らしています。父親は病気で働けず、生活保護を受けています。高校生の時から無利子と有利子の奨学金を利用しています。「将来は不安。返せない人を切り捨てるようなことはしてほしくない」
同意書に不安を感じ、提出しない人もいます。東京都内の大学院生Bさん(26)は「“同意書を提出しないのは返す意思がないとみなし、継続しない”というのは脅迫的なやり方です」と言います。Bさんは学部生のときから五年間利用しています。現在は博士課程一年。無利子で月十二万円利用しています。アルバイトと奨学金で学費と生活費を支えています。両親は定年退職しており、経済的に頼れません。
同意書を提出するかどうかはそれぞれですが、AさんもBさんも奨学金延滞者のブラックリスト化に反対しています。
月16万円の生活では
奨学金滞納ブラックリスト化
卒業しても職なく
政府や機構側は延滞者の増加を、個人信用情報機関への通報制度の導入の理由に上げています。しかし、延滞者の増加(七年で一・四倍)は奨学生が急増(七年で一・六倍)したことによるもので、単年度の返還率は94%、繰り上げ返済を含めれば100%を超えており、機構の業績悪化や奨学生のモラルの低下にあるわけではありません。
■1年契約
しかも、奨学金の延滞理由は低所得が45・1%、無職・失業が23・5%となっています(表・〇六年度機構調査)。経済的な困難が圧倒的です。
返済額が四百五十万円、毎月約二万円の返済が二十年続くというCさん(23)は一年契約で働いています。
月収は十万円。ほかにアルバイトをして、月十六万円で生活しています。年金保険料、必要経費などを払い、奨学金を返済すると自由になるお金はわずかです。
来年度は契約を更新できますが、次はわかりません。「返せる経済力がない人の場合、ブラックリストに載せたところで、返済ができないことに変わりはありません」
■異議あり
ブラックリスト化に反対している「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会」には、「同意書を提出しなければ奨学金の継続、貸与開始を認めないというのは強制であり、問題だ」「回収率改善の根本的解決策とはならないと思われる」などブラックリスト化反対の声が大学から寄せられています。
通報制度は二〇〇六年七月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太方針)二〇〇六」で出された奨学金の回収強化の具体化です。政府と機構側は通報制度に続いて、延滞者の高い大学名の公表、延滞九カ月で法的措置、有利子金利上限(3%)の撤廃などをねらっています。
奨学金は大学生の三人に一人、大学院生の二人に一人が利用しています。無利子が三割に対し、有利子が七割となっています。
奨学金は憲法と教育基本法の「教育を受ける権利」に基づいており、経済的な理由で学業をあきらめる若者をうまないためのものです。営利を目的に、返済能力のある人だけに融資する金融事業とは目的も貸し出す対象も全く異なります。
「給付制の創設や無利子枠を拡充し、返済しやすい制度を国がつくってほしい」と利用者や機構の職員らは訴えています。