2009年4月4日(土)「しんぶん赤旗」
厚労省 偽装請負合法化の「応答集」
財界・大企業要求に沿う
告示基準の骨抜き図る
厚生労働省が、労働者派遣と請負との区分基準(告示三七号)の解釈を拡大し、偽装請負の合法化につながる「疑義応答集」を出した問題で、この応答集が日本経団連や日本自動車工業会など財界・大企業の要求にこたえたものだったことが、三日までに分かりました。
偽装請負は、実際には派遣なのに請負を装って労働者を働かせる違法行為。そのため派遣と請負の区分について告示三七号で、(1)自己の雇用する労働者を直接指揮して働かせる(2)自己の業務として発注者から独立して処理する―と定めています。
この告示三七号について日本経団連は、政府の規制改革会議に再三、見直しを要求。二〇〇七年には「生産効率向上」を理由に、発注者と請負先との(1)コミュニケーション(2)設備の無償提供(3)半製品などの資材調達で伝票処理を不要とする―ことなどを求めていました。
これは、「コミュニケーション」の名で発注先が請負先に指揮命令ができ、自己調達しなければならない設備や資材を、賃貸借契約もなしに発注先から無償で提供を受けられるように求めたものです。
日本自動車工業会も〇八年度の規制改革要望で見直しを要求。請負会社が発注者から設備や資材を借り受ける場合、請負会社の責任と負担で業務を行っていると判断する担保となっている双務契約(賃貸借契約)について、「設備などの金額評価が困難であり、実務的負担が大きい」として撤廃を求めました。
電子情報技術産業協会と情報サービス産業協会も、「対価を単価×期間で決定すること」「発注者の設備を無償で利用すること」を〇五年から求めています。請負料金を単価で決めるなどというのは、単なる労働力の提供にしかすぎないとして告示基準では認められていないものです。
与党が提言
こうしたなかで、自民・公明の与党新雇用対策に関するプロジェクトチームが三月十九日に打ち出した「さらなる緊急雇用対策に関する提言」のなかで、「派遣と請負の区分を明確化する観点から、37号告示に関する疑義応答集を発出」することが盛り込まれました。こうした要求を受けてつくられたのが、今回の応答集です。
応答集では、発注者との「クレーム対応」や「技術指導」などについて、「直接の指揮命令ではないので偽装請負にあたりません」とする解釈を初めて打ち出しました。
「クレーム対応」「技術指導」などと名がつけば事実上どんな指揮命令もできることになりかねないものです。
請負会社が自己調達できない設備などについても、「別個の契約までは必要なく、請負契約に包括的にあれば特に問題ない」とする初めての見解を示し、告示基準を大きく変更させています。財界・大企業が求めてきた内容に沿って基準が骨抜きにされています。
規制逃れへ
製造大企業では、派遣労働者の期間制限がくる「二〇〇九年問題」もあって、派遣切りをすすめるとともに、派遣労働の規制強化を逃れるために「適正な請負」に移行する計画をすすめています。
しかし、現行法令のもとで「適正な請負」などありえないのが現実です。実際、キヤノンは、〇七年度までに是正指導を受けた八件すべてが告示三七号違反でした。経団連会長の御手洗冨士夫キヤノン会長が“(偽装請負になるのは)請負法制に無理がありすぎる”といって法令の見直しを求めたのはそのためです。
請負と派遣の区分基準の解釈を緩和することによって、大企業の要求にこたえて「適正な請負」を促進することに、応答集のねらいがあることが浮かび上がっています。