2009年5月1日(金)「しんぶん赤旗」

オバマ米大統領への書簡の発表にあたって

志位委員長の会見


 日本共産党の志位和夫委員長は三十日、国会内で記者会見し、オバマ米大統領あてに送った書簡の内容について、次のようにのべました。


核兵器廃絶の一点にしぼって

 私は、四月二十八日、米国・オバマ大統領に、核兵器廃絶問題にしぼっての書簡を送りました。その内容を公表します。

 私が、書簡を送ろうと考えたきっかけは、四月五日、オバマ大統領がプラハで、核兵器廃絶を世界によびかけた演説が、きわめて重要だと考えたからです。

 わが党は、唯一の被爆国・日本で、核兵器廃絶をめざして、国民とともにたたかいつづけてきた政党です。そういう政党として、核兵器廃絶という人類的課題の一点にしぼって、私たちの考えと要請を、書簡の形で伝えることにしました。

オバマ大統領の3つの言明に注目

 書簡では、まずオバマ大統領のプラハでの演説について、私がとくに大統領のつぎの三つの言明に注目し、大きな感銘をもって読んだことを伝えました。

 一つは、米国が「核兵器のない世界」――核兵器廃絶を国家目標とすると初めて明示したことです。

 二つは、広島・長崎での核兵器使用が、人類的道義にかかわる問題であることを初めて表明し、その立場から核兵器廃絶にむけた責任について語っていることです。

 三つは、「核兵器のない世界」にむけて、世界の諸国民に協力をよびかけていることです。

 私は、これらのオバマ大統領の表明について、つぎのように表明しました。

 「あなたが米国大統領としての公式の発言で、こうした一連の言明を行われたことは、人類にとっても、私たち被爆国の国民にとっても、歴史的な意義を持つものであり、私はそれを心から歓迎するものです」

核兵器廃絶のための国際交渉の開始を

 そのうえで、私は、大統領が演説のなかで「核兵器のない世界」の実現は「おそらく私が生きているうちには無理だろう」とのべたことについて、これは「同意するわけにはいきません」と率直に書きました。

 国連が創設後、一九四六年に、初めて行った総会決議第一号は、米国、ソ連、フランス、イギリス、中国、カナダの共同提案により、全加盟国の一致した賛成で「原子力兵器などいっさいの大量破壊兵器の廃棄」に取り組むことを決めています。

 しかし、それ以降の六十三年間に、核兵器保有国が、核兵器廃絶を正面からの主題にして交渉に取り組むということは、歴史上誰の手によっても行われていません。交渉はおろか、交渉のよびかけすら行われていないのです。

 交渉のよびかけから交渉の開始、そして合意、さらに実行までには、多くの時間がかかるかもしれません。しかし、それにどれだけの時間がかかるかは、取り組んでみないとわかりません。取り組む前から「生きているうちには無理だろう」というのは早いと思います。いま何よりも重要なことは、核兵器廃絶を正面の主題にした交渉をよびかけ、交渉を開始することであり、それはその意思さえあればすぐにでもとりかかれるはずです。

 そうした立場で私は、書簡で、「いま大統領が、『核兵器のない世界』をめざすイニシアチブを発揮することは、これまで誰も取り組んだことのない前人未踏の挑戦への最初の扉を開くものになるでしょう」とのべ、「私は、大統領に、核兵器廃絶のための国際条約の締結をめざして、国際交渉を開始するイニシアチブを発揮することを、強く要請するものです」とのべました。

 ここが書簡の要請の一番の中心点です。

部分的措置と核兵器廃絶の関係について

 書簡では、続けて、核軍縮にかかわる部分的措置と、核兵器廃絶の関係についての、私たちの見解をのべています。

 オバマ演説では、「核兵器のない世界に向けた具体的措置」として、新しい戦略核兵器削減条約(START)の交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准、兵器用核分裂物質の製造を禁止する条約(カットオフ条約)の追求などをあげています。書簡では、「これらの具体的措置は、核兵器廃絶という目標と一体に取り組まれてこそ、肯定的で積極的意義を持つものとなりうると考えます」とのべました。

 こうのべたのは、これまでもこうした部分的措置にかかわる交渉は行われてきましたが、なお世界には二万発以上の核兵器が存在しているという現実があるからです。その量は全人類を二十回、三十回と「皆殺し」にできるおびただしいものです。

 なぜこうした現実があるか。それは、これまで行われてきた部分的措置にかかわる交渉が、核兵器廃絶という目標ぬきのものだったからです。米ソ、米ロの間で行われた一九七〇年代の戦略兵器制限交渉(SALT)、九〇年代の戦略核兵器削減条約(START)などは、そういう重大な弱点をもっていました。一九六三年に米英ソで締結された部分的核実験停止条約は、地下核実験を合法化し、大規模な核軍拡競争をもたらす引き金になるなど、核軍縮に逆行する重大な結果をもたらしました。

 書簡で、私は、そういう歴史的経過を踏まえて、「私は、核交渉の全経過が、核兵器廃絶という目標ぬきの部分的措置の積み重ねでは、『核兵器のない世界』に到達できないことを証明した、と考えます」とのべました。

 この点で、オバマ演説でのべられている一連の具体的措置が、「核兵器のない世界に向けた具体的措置」と位置づけられていることに、私は、注目しています。

NPT再検討会議で核廃絶への「明確な約束」を

 書簡では、続けて、「核不拡散条約(NPT)の体制をめぐっても、事情は同じ」だとのべました。わが党は、どんな理由であれ核兵器保有国が増えることには反対ですが、NPT条約については前例のない差別性・不平等性をもつものだと批判してきました。

 それでも国際社会がNPT体制を受け入れていることは事実です。それは条約の第六条に明記されているように、核保有国が核廃絶への真剣な努力を行うことを約束したからにほかなりません。そして、この条約にもかかわらず、核保有国が増えつづけているのは、なぜかといえば、「NPTが発効して以後三十九年間、この約束が果たされてこなかったことに最大の原因がある」と、書簡では率直に書きました。

 そして書簡では、「核保有国は、自らが核兵器廃絶に向けた真剣な取り組みを行ってこそ、他の国々に核兵器を持つなと説く、政治的、道義的な説得力を持つことができることを、強調しなければなりません」と指摘しました。

 それに続けて書簡では、もう一点、つぎのように大統領への要請をのべました。

 「二〇一〇年の(NPT)再検討会議において、核保有国によって、核兵器廃絶への『明確な約束』が再確認されることを、私は強く願ってやみません」

 これが書簡の要請の第二の中心点です。

積極的な対応・行動を期待する

 わが党は、日米関係については、現在の支配・従属の関係を、対等・平等の関係にすることを基本路線としており、わが党と米国政府の間には、在日米軍基地の問題、自衛隊の海外派兵の問題など、多くの立場の相違点が存在していますが、あえてこの書簡は、核兵器廃絶という人類的課題の一点にしぼってのものとしました。

 オバマ大統領が、わが党の書簡でのこの提起に対して、積極的な対応・行動を行うことを期待しています。

核兵器廃絶のためにあらゆる努力をつくす

 書簡は、四月二十八日午前、私が、米国大使館を訪問し、ジェームズ・ズムワルト駐日米国臨時代理大使と会い、すでにお渡ししています。

 大使との会談で、私は、書簡の内容について説明し、大使は、書簡に対して謝意をのべ、「大切な書簡です。ホワイトハウスにたしかに届けます」と答えました。大統領のもとに書簡を届ける時間を考慮して、書簡を発表するのは本日この時間(午後二時)としました。

 この書簡の内容は、核保有国ならびに国連安全保障理事国、すべての国連加盟国に対して、駐日大使館をつうじてお伝えしようと考えています。国連事務総長、国連総会議長にもお伝えしたいと考えています。

 わが党は、オバマ大統領のプラハ演説を歓迎する立場から、「核兵器のない世界」という提起が実を結ぶために、野党の立場ですが、可能なあらゆる努力をはかりたいと考えています。

 先日、ベトナム共産党のノン・ドク・マイン書記長が来日したさいに、私は、オバマ発言を歓迎する立場を話し、マイン書記長は「米大統領の発言に注目しています。人類にとって核兵器廃絶に向けての大きな機会になることを願っています」とのべ、核兵器廃絶で協力することで一致しました。

 わが党は、核兵器廃絶を正面からの主題にした国際交渉を開始することを、米ロをはじめとする核保有国、国際社会に、強く働きかけていきます。地球上のあらゆる核兵器を廃絶するという、唯一の被爆国・日本の国民的悲願の実現をめざして、あらゆる力をつくす決意を重ねてのべるものです。


記者団との一問一答

北朝鮮の核問題と、核兵器廃絶の取り組み

 問い オバマ大統領の演説を尻目に、北朝鮮が国連安保理の決議に反発して核実験実施に言及していますが。

 志位 北朝鮮に対しては、その核兵器計画を終わらせるために、あらゆる外交的努力を国際社会がつくすべきだと思います。そうした外交的解決の場として最もふさわしいのは六カ国協議であり、北朝鮮が六カ国協議に復帰し、この協議が再開される、そのために国際社会があげて努力をすることが大切だと考えています。

 同時に、地球的な規模での核兵器廃絶の取り組みに、国際社会が本腰を入れて取り組むことが大切です。とりわけ、核兵器保有国がその仕事に本腰を入れて取り組むことが、私は、北朝鮮の核兵器問題の解決にとっても大きな力になると思います。

 米大統領の側から「核兵器のない世界」というメッセージが発せられたわけですが、核兵器を持っている国が、「われわれも捨てるから、あなたも捨てなさい」といってこそ、もっとも強い立場に立つことができるわけですから、北朝鮮の核問題の解決のうえでも、地球的規模での核兵器廃絶のための国際交渉を、できるだけ早く開始する努力を払うことが、大切だと思います。

 オバマ大統領のプラハでの演説は、北朝鮮のロケット発射の直後だったわけですけれども、北朝鮮への批判をそのなかでのべるとともに、同じ演説のなかで「核兵器のない世界」をよびかけている。ここのところが、非常に重要だと思って読みました。

米大統領の広島・長崎訪問について

 問い 広島では、ぜひオバマ大統領に広島・長崎に来てほしいという話が被爆者から出ていますが、委員長としてはどう受け止めておられますか。

 志位 私も、ぜひオバマ大統領に、広島・長崎を訪問し、被爆者の方々にも会っていただき、被爆の実態をその目で見ていただくこと、そして亡くなられた方への追悼をしていただくことを願っています。

 この書簡は、地球的規模での核兵器廃絶をいかにして進めるかという問題にしぼりましたから、そこまでは言及していませんが、私の思いは被爆者の方々と同じものです。

アメリカへの見方に変化があるのか

 問い これまでアメリカとの関係でいうと共産党は核問題や基地政策をめぐって、厳しく批判してきた経緯があるが、若干のスタンスの変化も含ませているのですか。

 志位 アメリカの側に変化があったということです。私も書簡でのべているように、アメリカ大統領の公式発言として、「核兵器のない世界」、すなわち核兵器廃絶を国家の目標にする、「核兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある」と、ここまで言ったのは、歴史上初めてのことです。これは非常に重要なメッセージだと考えました。

 もちろんわが党は、さきほども言ったように、在日米軍基地の問題、自衛隊の海外派兵の問題など、日米関係の現状については厳しい批判的見地をもっておりますし、この点では米国政府と立場の大きな隔たりがありますが、そういう隔たりがあったとしても、核兵器廃絶を追求するという発言については心から歓迎したい。これが実るように、私たちとしても、野党としてではありますが、できるだけのことはしたいという思いで、書簡を送りました。

 かつてレーガン大統領が、一九八三年に来日したときに、国会で演説をして、「私たちの夢は核兵器が地上からなくなる日が来ることであると申し上げるとき、私は全世界の人々の声を代表しているのである」と、ここまではのべたことがあるのですが、今回のように明確な形で、核兵器廃絶を国家目標にすると世界に宣言したのは、これは重要な一歩の大きな踏み出しです。ですから、私たちはこの内容については歓迎すべきだし、そして積極的な対応を要請するという立場でのぞむべきだと考えて、こういう行動をとったわけです。

これまでの米国大統領への書簡について

 問い これまで日本共産党の委員長が米国大統領に書簡を送った例はありますか。

 志位 これまでの例としては、最初は、一九八三年六月に日本共産党中央委員会として当時のレーガン米大統領に書簡を送りました。当時は核軍拡競争が恐るべき全世界の脅威になるもとで、核兵器廃絶を求める書簡を送りました。米ソ両国首脳あてに送りました。

 二回目は、一九八四年一月に宮本顕治議長(当時)がレーガン米大統領への書簡を送っています。これは国会演説の中でレーガン大統領が「私たちの夢は核兵器が地上からなくなる日が来ることだ」とのべたことを受けて、このときも米ソ両国首脳に核兵器廃絶を求める書簡を送っています。

 三回目は、同年十二月に、宮本議長(当時)が、ソ連共産党チェルネンコ書記長との会談で合意した核兵器廃絶の共同声明に関連して、レーガン大統領に書簡を送っています。

 それから、四回目は、一九八六年に宮本議長(当時)が米ソ両国首脳に送った書簡です。このときはゴルバチョフ(ソ連共産党)書記長の核兵器廃絶提案に関連して、レーガン大統領に、書簡を送っています。

 さらに、五回目は、一九九八年に、これはインド・パキスタンが核実験を行ったさいに、不破哲三委員長(当時)が、核保有諸国首脳あてに書簡を送っています。

 今回の書簡は、さきほど言ったように米国大統領として、歴史上初めての踏み込みをいくつものべた発言を受けてのものですので、私が、アメリカ大使館を、党の代表者としては初めて訪問もし、先方も臨時代理大使に応対していただき、そこで私たちの真意をよく伝えて、実があがるような手だてもとりました。

アメリカと日本共産党との関係について

 問い 日本共産党の議長・委員長が公式に一部分とはいえ、アメリカを評価することは日本共産党史上初めてということですか。

 志位 国際政治の基本問題で、「心から歓迎する」という形で評価したのは、おそらく初めてだと思います。

 大使との話し合いの中でも、私は、日米関係のあり方については、書簡にも書いてあるようにアメリカ政府と大きな相違点があると言いました。在日米軍基地の問題をはじめ、わが党の立場については、つぎの機会に話したいと伝えました。

 大使も、「すべての問題を一日では言い尽くせません」「意見の違いはありますが、意見交換し、お互いの立場を理解していきたいと思います」とのべました。

 アメリカという国と日本共産党という政党が、互いに立場が違う大きな問題がたくさんあっても、それもふくめて話し合って、一致する問題では、その問題についての評価を率直に伝えるし、一致しない問題は大いに意見を言うという当たり前の関係が始まったという点でも、たいへん大事な機会になったと思います。



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