2009年5月10日(日)「しんぶん赤旗」

これでいいのか 温暖化対策中期目標(1)

あ然とさせた「4%増」


 二〇二〇年までの日本の温室効果ガス排出量削減の中期目標を決める期限が六月末に迫っています。政府が三月末にようやく示した六つの選択肢は、一九九〇年比「4%増」((1)案)から「25%減」((6)案)までの低水準のもの。ところが現状では、国民的な大きな議論にならないなかで低い目標が決まってしまいかねません。これでいいのか、日本の中期目標!(坂口明)


 「(1)を推薦したい」「(1)しか考えられない」「(1)を選ぶのが当然だ」…。

動員された人々

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(写真)液化天然ガス(LNG)を燃焼させてCO2を含む煙を排出する東京電力・東扇島火力発電所(神奈川県川崎市)

 四月二十日夜。国会議事堂そばの内閣府の地下講堂では、異様な光景が展開していました。政府が示した中期目標について関係閣僚と国民が議論する「意見交換会」で、大胆な目標設定に反対する企業側が動員した人々が相次いで発言し、「4%増」案支持を表明しました。

 一般参加者枠で発言した十四人は、(1)案支持七人、(1)または(2)(1%増―4%減)案支持一人、(3)(7%減)案支持一人、(6)案支持四人、選択肢にない「25%以上」が一人と、ほぼ両極化しました。

 なかでも、「4%増」案は、温室ガス「削減」目標にもならず、温暖化を懸念する人々をあぜんとさせています。それは、「自主努力を促す効率改善目標」(自主目標)など現在日本がとっている政策を継続し、「既存技術の延長線上で効率改善」を図るというもの。新たな努力は何もしない選択肢です。

 このような政策の結果、二〇〇七年の温室ガス排出量(確定値)は九〇年比で9%も増えたことが判明しました(四月三十日)。「〇八―一二年に6%削減」という京都議定書の目標さえ達成できない方策で、一三年以降のより大きな課題に臨めるわけがありません。

 “「限界削減費用」で計算すれば、日本の4%増は欧州連合(EU)の14―19%減、米国の6%増―5%減に当たる”というのが政府の言い分です。“日本は省エネが進んでいるため、同じ一トンのガスを減らすにも他国より費用がかかる”から、負担を公平にするというのが「限界削減費用」の理屈です。

 こんな身勝手な議論が説得力をもつわけがありません。斉藤鉄夫環境相は先の意見交換会で、この主張は「国際交渉では通用しない」と告白しました。

 意見交換会は今後、十一―十三日に札幌、福岡、東京と開催。政府はまた六案についての国民の意見を十六日締め切りで募集しています。それらを受けて、麻生太郎首相が六月末までに決断します。これまで運動を進めてきた環境NGOからは焦燥感も出ています。

 「NGOの活動が失敗しつつある最悪の事態を想定する必要があるのではないか」―四月末に和歌山県・高野山で開かれたNGOなど主催の「地救ふぉーらむ」では率直な疑問も出され、運動の進め方が議論されました。

存在が見えない

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(写真)政府の中期目標案のスライドを背に議論する「地救ふぉーらむ」のパネルディスカッション=4月25日、和歌山・高野山大学

 では、粛々と政府・財界の意のままに低い中期目標が決まってしまうのか。そうでもなさそうです。

 「現在の日本政府は温暖化交渉に乗り気でなく、その結果、国際交渉で日本は目に見える存在となっていない」―フランツ=ミカエル・スキョル・メルビン駐日デンマーク大使は「地救ふぉーらむ」で指摘しました。

 一九九七年に採択された京都議定書の交渉で日本は、米国を軸とした「アンブレラ・グループ」として行動することで、発言権を確保してきました。ところが、オバマ政権の誕生で米国の立場が大きく転換するもと、▽「セクター別アプローチ」による目標設定▽中国など新興国の削減義務化▽「限界削減費用」による利己的な目標設定―など、「自分はやらないが、他国は努力せよ」式の主張を繰り返す日本が孤立する状況が生まれています。デンマーク大使の発言も斉藤環境相の告白も、それを示しています。

従来策もたない

 そのため日本政府は最近、国内排出量取引の開始や、電力固定価格買取制度の部分導入など、これまでかたくなに拒否してきた施策の着手に踏み出しています。どれも限定的で、実効性が疑問視されていますが、従来の政策への固執ではもたないことを示す動きです。

 「地救ふぉーらむ」分科会で報告した環境ジャーナリストの枝廣淳子さんは、「(政府の)懇談会で中期目標を決めるのではない。首相が決めるのです」と述べ、国民世論がカギを握ると強調。

 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は、「けちけちした、つまらない計算で(目標を)出そうとしている枠組み自身がおかしい」とし、政府案上限の25%減を超えても、温暖化防止に必要な目標を「トップダウンで決めるべきだ」と語りました。 (つづく)

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