2009年5月31日(日)「しんぶん赤旗」

主張

「海賊対処」法案

派兵恒久化の企てを断念せよ


 「海賊対処」を名目にアフリカ・ソマリア沖に派遣している海上自衛隊に、積極的な武器使用を認める「海賊対処」派兵法案の審議が参議院で始まりました。

 自民・公明両党は、六月三日までの国会の会期を延長してでも法案を成立させようとしています。法律は無期限であり、自衛隊をはるか遠方にまで送り込み、外国の船舶を守るために歯止めのない武器使用も認める、憲法違反の悪法です。法案をテコに、海外派兵を拡大・強化し、海外派兵恒久法につなげようとする政府・与党の企てを許すわけにはいきません。

憲法違反の武力行使

 法案は「海賊対処」の任務を遂行するためとして、歯止めのない武器使用の権限を自衛隊に与えています。イラク派兵法などにはなかった初めての規定です。

 自衛隊が攻撃されなくても、「他の船舶に著しく接近」「つきまとい」「進行を妨げる」行為をする「海賊」に、発砲できるようにしています。自衛艦は大砲やミサイルなどの強力な武器を備えており、使用すれば他国民を殺害し、船を沈没させるといった重大事態になりかねません。しかし政府は、「武器使用は合理的な範囲で」というだけで、武器使用の具体的な基準も、武器の種類も示さず、現場任せにする態度です。

 政府がこれまで、攻撃に対する正当防衛としてしか武器使用を認めてこなかったのは、それ以外の武器使用は「憲法九条の禁ずる武力行使に該当することがないといいきれない」(二〇〇一年十二月六日参院外交防衛委員会、津野修内閣法制局長官)からです。この政府見解に照らしても、任務遂行のための武器使用は、憲法違反の武力行使としかいえません。

 ソマリア沖に出没する「海賊」は、部族間抗争が続くソマリアのなかの政治的集団で、国際法上の国家に準ずる組織にあたるとの指摘もあります。政府は国家に準ずる組織への武器使用は憲法の禁じる武力行使だといってきました。「海賊」の実態は法案審議に不可欠な問題です。実態を隠し、歯止めのない武器使用を国会に押し付けるのは言語道断です。

 軍事力では「海賊」をなくすことはできません。二十五カ国余りが四十隻もの軍艦をソマリア沖からアデン湾に派遣しても、「海賊」は減るどころか、増えていることをみても明らかです。

 もともとソマリアは外国軍にほんろうされてきた歴史をもっています。一九九三年に「第二次国連ソマリア活動」に参加した米軍がソマリアに軍事介入し反発された事件もその一つです。「海賊対処」を名目にした外国による軍事介入は、ソマリアの不信感を大きくするだけです。

復興支援こそ真の役割

 「海賊対処」をテコにして、憲法九条の制約を取り払い、海外での武力行使に道を開くことになる「海賊対処」派兵法案は、徹底審議の上で廃案にすべきです。

 憲法九条をもつ日本がやるべきことは軍事的役割ではありません。内戦で荒廃したソマリアの復興であり、政治的、経済的な安定をめざす国際協力を主導することです。ソマリア周辺の国々の沿岸警備能力強化の支援も不可欠です。

 「海賊対処」派兵法案を断念し、政府は政治的、外交的な役割に徹すべきです。



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