2009年6月7日(日)「しんぶん赤旗」
被告のいた街で
秋葉原事件から1年
相次ぐ「派遣切り」 そこかしこに空き室
静岡・裾野
死者7人、負傷者10人という白昼の大惨事となった「秋葉原殺傷事件」から8日で1年。22日から、争点や提出する証拠を絞り込む公判前整理が始まります。事件を起こした加藤智大被告(26)が派遣労働者として働き、住んでいた静岡県裾野市を訪れました。(菅野尚夫)
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加藤被告が働いていたトヨタグループの中核「関東自動車工業」(関自工)東富士工場の正門。退社する労働者に事件から1年たつ感想を尋ねても押し黙って立ち去ります。事件後、外国人労働者が解雇され、続いて派遣労働者がリストラされました。正社員は「残業がなくなり月1万円は減収」となりました。
削減計画が
加藤被告は、大手派遣会社・日研総業から関自工に派遣されて時給1300円で塗装工程の労働者として働いていました。事件前、関自工は、約200人の派遣労働者を6月末までに150人減らす計画を通告。被告もこれを聞かされていました。
事件3日前の6月5日、自分の作業着(つなぎ)が見当たらなかったことからトラブルとなり、怒り出して無断で早退しました。そして携帯サイトに「やりたいこと…殺人」と書き込んで事件に突き進んでいきました。
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被告は、日研総業が借り上げたマンションに住み、送迎バスで通勤していました。彼が住んでいたマンションを訪ねました。空き室が目立ちます。
殺すなんて
「事件後に越してきましたから犯人のことは知りません」という女性。「私も日雇い派遣で、食品の試食担当の仕事をしていましたから、派遣のつらさはよくわかります」と、孤立して働く無権利の状況を話します。
「1週間とか、3日間とかスーパーなどに派遣され、新商品の食品の試食を客に進めて買ってもらう仕事です。『声が小さい』『もっと商品の宣伝トークをして、売れ』と、店長からは怒鳴られる。2時間も追及されて泣いたこともあります」と苦しい胸のうちを語りました。「犯人は明日への希望を失ったんですね。私は人を殺すなんて、絶対にしないけど…」
派遣労働者向けのマンション管理・斡旋(あっせん)をしている不動産業の社長(57)は「派遣会社がマンションを借りているため、それまであった『大家と店子』の関係がなくなりました。(犯人は)コミュニケーションが取れなかったのだろうが本人が悪い。相談できる仲間を努力してつくるべきだった」と、事件を振り返ります。
事件後に裾野市に工場があるトヨタ研究所、キヤノン研究所、矢ア総業、三菱アルミニウム、ヤクルトなど大手企業が相次いで派遣社員のリストラを開始。「空き室が増え、どこもゴーストタウンです。家賃を1万円値下げしても部屋は埋まりません」と嘆きます。
若者の希望
静岡県の三島ユニオンの何でも相談員をしている男性(61)は、「若者は『透明な存在』にさせられています。犯人は叫びたくとも叫ぶ場所もなく、ねじ曲がった形で自分の存在意義をアピールしました。『派遣村』は、孤立した若者に希望を示したと思います。『裾野市にも希望はあるよ』と、ユニオンの旗を高くかかげます」と語っていました。
秋葉原無差別殺傷事件 昨年6月8日午後0時半すぎ、東京・秋葉原の歩行者天国で、トラックが交差点に突っ込んだ上、降りた男が殺傷能力の高いダガーナイフで通行人を刺し、7人が死亡、10人が負傷しました。警視庁は殺人未遂容疑で加藤智大被告(26)を現行犯逮捕。東京地検は同年10月、刑事責任能力を調べる鑑定留置を経て、殺人罪などで起訴しました。
同被告は職場を転々としており、調べに「人生のうっ憤のようなものが出て現実が嫌になり、ネットに逃避しても無視され、やるなら大きな事件を起こそうと考えた」と供述しているといいます。
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