2009年6月25日(木)「しんぶん赤旗」
主張
排出削減中期目標
抜本見直しで産業界に規制を
2020年までの温室効果ガス排出削減の中期目標を1990年比8%減(05年比15%減)とした麻生太郎首相の決定が、内外から厳しい批判を浴びています。国際交渉の期限が迫る中で、日本の中期目標は交渉の足を引っ張るものです。排出削減は国際社会にとって待ったなしの課題で、各国に野心的な取り組みが求められています。政府は中期目標を抜本的に見直すべきです。
正確な情報出さず
麻生首相は「これ以上削減目標を大きくしようとすると国民の負担があまりに重たいものになってしまう」と述べました。年間で光熱費が3万円増加し、経済の落ち込みで失業が0・2%上昇し、可処分所得が世帯あたり4万円下がるなどと試算を示しています。
試算はエネルギーや自動車など産業界が中心となって昨年まとめた「長期エネルギー需給見通し」が下敷きです。一般家庭の負担増ばかり印象づけ、国民を脅すもので正確な情報を提供していません。
国立環境研究所の研究者は政府試算について、温暖化対策をとれば国内総生産(GDP)に必ずマイナスの影響が出るとしていることを批判しています。自然エネルギー普及に伴う雇用創出などプラス効果も見込んでいません。
同研究所の独自試算は、90年比25%削減する場合でも年率1・1%の経済成長が可能としています。温暖化対策は投資となって波及効果を呼ぶからです。家計についても、光熱費の支払額が増えても、所得も増えることから、影響は小さいと試算しています。
なにより政府試算は、対策をとらないことで引き起こされる温暖化が世代を超えてもたらす悪影響を考慮していません。同研究所などは、対策をとらなければ洪水や高潮の被害、熱中症での死亡などで、経済的損失が日本だけで今世紀末に毎年17兆円にのぼると予測しています。
世界の科学者が参加して07年にまとめられた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告を最新の知見で補完する国際会議が3月にコペンハーゲンで開かれました。今月発表された同会議の報告は、排出と温暖化の進行がIPCC予測の「最悪シナリオに沿っている」とし、「対策をとらないことは許されない」と警告しています。同時に、効果的措置をとれば、再生可能エネルギー分野での雇用拡大や温暖化に伴う社会的コストの削減など大きな利益があるとも指摘しています。
対策を先送りすればするほど、温暖化の被害は大きくなります。中期目標が低い水準にとどまれば、2050年までに現状より60〜80%削減との政府長期目標の達成は、より困難でコスト高になります。政府の中期目標は京都議定書の目標にわずか2ポイント上乗せしただけです。抜本見直しは避けられません。
産業界の自主計画では
京都議定書で日本は6%削減しなければならないのに、現実には逆に9%も増やしています。排出量の80%を占める産業界の対策を日本経団連の自主計画に任せてきたことが主因です。中期目標でも産業界の排出を規制せず、自主計画に任せようとしています。
政府が産業界と削減協定を結び、排出を規制することが温暖化対策にとって不可欠です。
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