2009年8月5日(水)「しんぶん赤旗」
富裕層負担で医療改革
米オバマ政権、年内成立目指す
激しさ増す民間保険業界の抵抗
米国のオバマ政権にとって最大の内政課題である医療保険改革は、民間保険業界や議会内の反対派の抵抗で、8月初旬の夏季休会前の法案成立が消えました。オバマ大統領は「年内成立を」との構えです。高額な医療費や増大する一方の無保険者などの問題が、かつてないほど議論の焦点となっています。(ワシントン=西村央 写真も)
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民間医療保険料はこの9年間で約2倍となり、賃金の伸びの約3倍に達します。
国民1人当たりの医療費は7421ドル(約70万円、2007年)で、他の主要国に比べて2倍以上(ホワイトハウス資料)です。
献金先を替え
医療費高騰の背景には、医療の提供が保険会社と製薬会社の営利原則に支配されている現状があります。
オバマ政権が議会とともに進めるという包括的医療改革は、医療費上昇を抑えること、すべての国民が質の高い医療提供を受けることが基本です。公的医療保険導入では、10年間で1兆ドル(約94兆円)という費用のうち、約半分をブッシュ政権時代に引き下げられた富裕層への税率を戻すことで賄うとしています。
こうした改革への巻き返しも激しさを増しています。医療保険業界の政治団体「米国医療保険計画」(AHIP)は、公的保険制度導入への反対キャンペーンを進めるとともに、献金先をこれまでの共和党議員から、民主党議員に切り替えて与党に影響を及ぼそうとしています(民間団体「センター・フォー・リスポンシブ・ポリティクス」調べ)。
この結果、与党内にも富裕層増税への反対が生まれ、議会では難航が続いています。
オバマ大統領は7月22日夜の会見で、「医療費コストを管理できなければ、財政支出を抑制することもできず、国民負担も際限なくあがる」「国民の健康改善につながる法案での合意は可能だ」として、年内の改革実現へ国民の協力を呼びかけました。
1年で480万人
米国の総医療費は、国内総生産(GDP)の約6分の1を占めるまでになっています。
メディケア(高齢者向け医療保険)とメディケイド(低所得者、障害者向け医療扶助)を除くと、公的医療制度がないのが米国の医療保険です。一般の人々は、民間保険会社による保険に頼っています。その保険料が高く、低所得者は払いきれないため、無保険者が国民の15%、4700万人に上っている要因ともなっています。
有力政治ブログ「フーフィングトン(HUFFINGTON)ポスト」は7月22日、無保険者に焦点を当てた記事の中で、18歳以上の無保険者が2008年9月からこれまでの一年足らずの間に、3170万人から3650万人へと480万人も増加したとの数字を挙げ、労働の現場にいた多くの人が医療保険を奪われたことに警鐘を鳴らしています。
6月25日、米連邦議会前で開かれた公的医療保険制度を求める集会に参加したレーナ・カゾーナさん(46)=ニューヨーク州、建設業=は、「今の民間保険はあまりに高い。公的な保険制度は切実な願い」と訴えました。
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