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2009年8月13日(木)「しんぶん赤旗」

NHK「台湾統治」番組

右派勢力の攻撃 狙いは


 日本の台湾植民地統治の実態を検証したNHK番組「シリーズ・JAPANデビュー第1回『アジアの“一等国”』」(4月5日放送)を、右派勢力が「反日的」だと激しく攻撃しています。国会や地方議会も巻き込んで、その行動はエスカレートする一方。NHKをめぐって何が起きているのでしょうか。


 5月30日、東京・渋谷区のNHK放送センター周辺は異様な雰囲気に包まれました。日の丸やプラカードを掲げた1000人を超す集団が「NHK解体」を叫び、100人ほどが局内に乱入。「抗議行動」は各地のNHKにも拡大しました。

 これに呼応するかのように、6月11日に安倍晋三元首相ら“靖国派”自民党国会議員が番組を検証するとした議連「公共放送のあり方について考える議員の会」を設立。同月25日には、インターネットなどで集めた約8000人の原告が「番組は一方的なやらせ取材で、放送法違反」だとしてNHKを集団提訴しました。

8年前の顔ぶれ

 見逃せないのは、NHKに圧力をかけている自民党「議員の会」の顔ぶれが8年前、日本軍「慰安婦」を扱ったETV番組に圧力をかけたメンバーと重なっていることです。安倍元首相と中川昭一元財政・金融相が「議員の会」の中心に座り、古屋圭司前衆院議員は「会」の会長に就任しました。映画「靖国 YASUKUNI」をやり玉にあげた稲田朋美前衆院議員が事務局長。中山成彬元国土交通相が会長の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」も番組攻撃に加わっています。

 ETV番組への政治介入については、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が4月28日に意見を出しました。安倍氏とNHK幹部が面談し、番組について説明したことは「公共放送の自主・自律の理念を危うくしている」と見解を出したばかりです。それにもかかわらず、執拗(しつよう)に続く自民党議員らのNHKへの揺さぶり。言論・報道の自由にもかかわる問題です。“先の戦争は正しかった”と侵略戦争と植民地支配を否定する歴史観を押し付けようとする「靖国派」の意図がうかがえます。

「毅然と対応を」

 NHKは、ホームページで番組のねらいを「日本が最初の植民地とした台湾に近代日本とアジアの原点をさぐり、これから日本がアジアの人々とどう向き合っていけばよいのかを考えようとした」と説明。内容に偏向はなく、「事実関係や用語に間違いはない」としています。

 6月25日の参院総務委員会で、日本共産党の山下芳生議員は「歴史を直視することでこそ、相互理解と深い友好関係が構築できると感じた」と番組を評価し、政治からの圧力に毅然(きぜん)と臨むことをNHKに求めました。

 福地茂雄NHK会長は「番組に恣意(しい)的編集はなかった」と明言し、「放送による言論の自由を確保するという公共放送の生命線はゆるがせにできない」と強調しました。

 市民団体も立ち上がっています。放送研究者・学者、ジャーナリスト、各地の市民団体が共同して「開かれたNHKをめざす全国連絡会」が6月に発足。7月7日にNHKを訪れ、福地会長や理事、経営委員会あてに、激励のメッセージと圧力に毅然と対応するよう求める「要望書」を提出しています。


周到に仕組まれた介入

メディア研究者 松田 浩さん

 NHKスペシャル「アジアの“一等国”」は、日本が日清戦争によって「獲得」した台湾を植民地として統治した実相を、台湾総督府の膨大な資料と貴重な証言を元に明らかにした労作です。

 しかし、日本の戦前の植民地政策や侵略の歴史を全面肯定し、それへの反省を「自虐史観」と攻撃する一部勢力には、それが許せなかったのです。植民地支配の負の側面を伝えたことをもって、公平でない、いい面も伝えろというのは、歴史の検証を目的としたドキュメンタリーの本質を解さない批判です。

 問題なのは、日本軍「慰安婦」問題を扱った番組で、NHKにかつて政治圧力をかけた安倍晋三氏らの自民党国会議員グループが、またも介入に乗り出してきていることです。現状が番組改変問題を生んだ8年前の構図と似ているだけでなく、周到に仕組まれ、ファシズム的要素を強めてきているのが気になります。

 攻撃のねらいが、今回の番組だけにあるのではない点が重要です。日本の近現代を世界の視点で検証するという企画意図そのものを「偏向」攻撃で威嚇し、NHKを彼らのめざす思想動員に協力させていこうという思惑が透けて見えます。

 懸念されるのは、NHKが11月から放送を予定しているドラマ「坂の上の雲」(原作・司馬遼太郎)が、その思想動員の手段に利用される危険性です。自衛隊のソマリア沖出動で海外派兵の恒久化が推し進められる中、右派勢力のねらいは、明治以降の歴史を逆に肯定的に描き出し、憲法改正・軍事大国化への流れに一気につなげていこうという点にあります。

 右派勢力の攻撃による公共放送の危機は、同時に平和と民主主義の危機でもあることを銘記する必要があります。(「開かれたNHKをめざす全国連絡会」世話人)



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