2009年9月4日(金)「しんぶん赤旗」
イラク治安 悪化の懸念
暴力・テロ 8月、393人が犠牲
【カイロ=松本眞志】イラクでは最近、暴力やテロが再び増大しはじめ、治安が依然として不安定な状況になっています。来年1月の総選挙をにらんだイスラム教シーア派とスンニ派勢力、クルド人などの勢力争いがエスカレートするなど宗派間抗争再燃の懸念も強まっています。
イラク保健省は1日、暴力やテロによる8月の犠牲者数が393人となり、今年4月以降月間で最高になったと発表しました。8月19日に政府省庁が集中する首都バグダッドの「グリーン・ゾーン」で発生した爆弾テロでは95人が死亡、500人以上が負傷し、復興事業をすすめる政府や関係国に大きな衝撃を与えました。
事件直後、ゼバリ外相は「治安部隊の幹部と殺人者、実行犯とのあいだに協力関係があった」と主張。治安組織の全面的な洗い直しを求めました(エジプト週刊紙アルアハラム・ウィークリー8月27日付)。
マリキ政権はこれまで、イスラム教スンニ派とシーア派両教徒の宗派間抗争の克服、旧バース党勢力との国民和解事業のために努力し、国際テロ組織アルカイダとのたたかいでも一定の成果を収めたと評価されてきました。
カタールの衛星テレビ・アルジャジーラ(電子版)は8月9日、「覚せい評議会は安全保障のカギか」と題する論評で、地方のスンニ派部族を中心に2006年に結成された「覚せい評議会」が政府と協力しアルカイダ一掃と暴力・テロの減少で重要な役割を果たしてきたと評価しました。
当時、米国は覚せい評議会に財政援助を行い、イラク政府も同組織のメンバーを治安組織に吸収することを含め将来の雇用を約束して、協力関係を築いていました。
ところが最近になって、マリキ政権と覚せい評議会との不和が伝えられています。マリキ政権などシーア派勢力とクルド人勢力が、総選挙でのスンニ派勢力の拡大強化を警戒するようになったためといわれています。
政権内部では覚せい評議会に旧バース党員やアルカイダのメンバーが潜入しているとの声もあがっています。政府が約束した評議会メンバーの政府治安組織への統合は全体の2割にとどまり、残りは未雇用の状態。政府側の扱いに対して評議会側は不信を強めています。
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