2009年10月2日(金)「しんぶん赤旗」
鞆の浦埋め立て認めず
「景観、国民の財産」
広島地裁判決 住民の訴え通る
「ポニョ」の舞台
広島県と福山市が進める景勝地「鞆(とも)の浦」の鞆港埋め立て・架橋計画に反対する住民ら約160人が藤田雄山県知事を相手取り、埋め立て免許を差し止めるよう求めた訴訟の判決が1日、広島地裁であり、能勢顕男裁判長は鞆の浦の景観は公益だとして「埋め立てを免許する処分をしてはならない」と言い渡しました。景観を理由に公共事業の差し止めが認められたのは初めてで、開発と環境保護をめぐる今後の論議に大きな影響を与えそうです。
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判決は「鞆の景観の価値は、私法上保護されるべき利益であるだけでなく、瀬戸内海における美的景観を構成するものとして、いわば国民の財産ともいうべき公益である」と判断。住民らの「鞆の浦のかけがえのない歴史的文化的景観が破壊されれば、世界遺産登録への道が閉ざされる」との主張を全面的に認めました。
県は昨年8月、国土交通省に埋め立て認可を申請したのに対して、金子一義国交相(当時)が今年1月、「国民の同意を取り付けてほしい」と発言。国の認可の判断を待つまでもなく、司法が判断した形です。
また、判決は住民らが提案している山側トンネル案でも交通の混乱状態は相当程度解消されると指摘し、県や市の事前の調査が不十分で「道路整備効果を判断することは合理性を欠く」と批判しています。
住民らは判決後、広島弁護士会館で記者会見し、鞆の浦世界遺産訴訟原告団(大井幹雄団長)と弁護団(水野武夫団長)の声明を発表。声明は「画期的な司法判断として長く歴史に残る」と指摘し、国土交通大臣が県の認可申請を不認可とするよう要望しています。
鞆の浦は宮崎駿監督が長期滞在して構想を練ったアニメーション映画「崖の上のポニョ」の舞台として知られています。
内外の世論 事態動かす
住民運動と連携し計画撤回を求めてきた日本共産党の仁比聡平参院議員の話 映画「崖の上のポニョ」や、世界遺産登録を願う13万5千筆もの署名、イコモス(国際記念物遺跡会議)の中止勧告など、「鞆の景観をまもれ」という国内外の世論と運動がとうとう裁判所を動かしました。鞆の浦の歴史的景観を「国民の財産」と評価し、景観利益の法的保護と裁量権の逸脱を明快に断じて事業の差し止めを命じたきわめて画期的な判決です。
県、市は判決を真摯(しんし)に受けとめ計画を白紙に戻し、国は景観を生かしたまちづくりと地元の生活環境の改善に最大限の力を尽くすべきです。
鞆の浦 瀬戸内海のほぼ中央に位置し、沖合で東西の潮流がぶつかることから、昔から航海する船が潮待ち・風待ちの港として利用。大伴旅人が「吾妹子(わぎもこ)が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき」と詠むなど万葉集に8首残っています。江戸時代、鞆に宿泊した朝鮮通信使の李邦彦が「日東第一形勝」と称賛。2007年には「美しい日本の歴史的風土100選」に選ばれました。国や県、市指定の重要文化財多数。
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