文字の大きさ : [] [] []

2009年10月5日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

ふんばる都市農業


 農業を続けるには大変な都市農家。その8割余が宅地並み課税や相続税で農地を手放さざるをえない状況に置かれています。他方、都市計画法の改正の動きがあり、都市農業発展の可能性も出てきました。現状と課題を見てみました。


「安全で新鮮」 産直市は盛況

大阪・池田市

地図

 農民組合大阪府連は、近郊の農家と一緒に、消費地に近いという利点を生かして新鮮な農産物を供給しようと、産直野菜市を開いています。4月から新たに池田市にある農民組合北摂支部協議会でも、事務所を店舗に開放して週1回、水曜日、朝9時から正午まで直売所をオープンしました。

 「ナスビおいしかったよ。包丁を入れるとはね返される」「トマトの予約を」「おみそはまだ」「大根は」など、安全でおいしい新鮮な野菜が消費者に喜ばれています。

 農家も消費者も一緒に朝の出店準備や販売に参加し、オープン前からお客さんの列ができ大忙しです。

 「ようまあ、これだけの野菜を集められるなんて」と驚く組合員、「いままで自家消費だけだったが、直売所で自分の作った野菜を喜んで持って帰ってもらえる」と、「今度は何を作付けしようか」と話が弾んでいます。

 消費者からは、新米の予約が相次ぎ心待ちにされており、収穫も始まりました。

 さらに、池田直売所では組合員の書店前で月1回、同じく障害者作業所で月2回の産直市を開きました。近所の保育所からも「野菜が作られることは農地を守り、地球環境を守ること」と「給食に直売所の野菜を」の声がかかりました。

 都市部の農業は、安全で新鮮な野菜はもちろん、食と農の情報提供や災害に備えたオープンスペースとして、また、失われていく自然のなかで、潤いや安らぎを与える緑の空間としての多面的な役割がいま見直されています。(松野久美子・農民組合北摂支部協議会事務局長)

消費者の笑顔が後押し

東大阪市

 田中幸雄さん(69)は、大阪市に隣接する東大阪市で小松菜、水菜、春菊、ホウレンソウなど葉物野菜を、1600平方メートルのハウスで栽培しています。

 5年前までは、大阪市内の木津市場に出荷していましたが、今はJAグリーン大阪が組織する「安全な食と農の研究会」(500人)のフレッシュ・クラブ直売所(3カ所)と農協支店の朝市(9カ所)、近所の給食会社の社員食堂、そして市立保育所に稲田地区の仲間20人と協力しながら出荷しています。

 「直売所や朝市の出荷は、朝4時すぎに畑へ行き収穫、そして6時半には売り場に持参する毎日です。品物を切らすわけにゆかず苦労が多いですが、消費者の喜ぶ顔を見ればやめられません」といいます。

 一番気を使うのは安全性。化学肥料は使わずに、酵素と米ぬかを混ぜて使用し、害虫対策は、これを虫が口にすれば食欲をなくすという薬とハウス周辺に虫が好む色の虫取り紙を張り対策をとっています。店では「田中さんの野菜は安全でおいしい」と消費者の評判は抜群です。

 東大阪市は80%が市街化区域。田中さんのハウスもそのど真ん中にあります。生産緑地に指定されていますが、宅地並み課税なら100万円を超す固定資産税となり、農業はつづけられません。

 市街地ゆえの苦労も絶えません。かつて道路を挟んで下水処理場ができたとき、悪臭と飛来する泡状の物質に悩まされ、農民組合に加入し市と交渉し解決しました。また、生産緑地指定を受けてすぐに、ハウスの南側に隣接して10メートルの高さの倉庫が建設されました。その日陰になって、冬場はハウスの3割程度は収穫できません。

 こんな苦労を乗り越えられるのは、「物づくりが大好き」という田中さんの“百姓魂”と、それを支援する消費者の声です。(田中豊・農民組合大阪府連合会書記長)


農地8万ヘクタール保全は急務

宅地並み課税外し、相続税猶予で

 現在、国土交通省で都市計画法の抜本改正の作業が進められつつあり、都市農業にとって歴史的大転換ともいえる局面を迎える可能性がでています。

 都市政策の見直しを進めてきた都市計画部会の最終報告書が、今年の6月にまとめられ、その中で次のように都市農業の積極的位置づけを明らかにしました。

 「都市と農地を対立する構図でとらえる視点から脱却し、都市近郊や都市内の農地について、新鮮で安心な地産地消の農作物を提供してくれる農業生産機能を中心に、自然とのふれあい、憩いの場、防災機能等の農地の多面的機能を、都市が将来にわたり持続していくために有用なものとして、都市政策の面から積極的に評価し、農地を含めた都市環境のあり方をより広い視点で検討していくべき」

 これまで、1968年に制定された都市計画法は、高度経済成長政策による都市への人口の集中に対応するため、市街化区域を線引きし、市街化区域内農地を宅地や商業用地などの土地需要に振り向けることを目的としていました。

 そのことを露骨に推進したのが、72年の市街化区域内農地に対する宅地並み課税制度でした。その後、反対運動が展開されるなどして、現在は、生産緑地が導入され、生産緑地に指定された市街化区域内農地は、宅地並み課税の対象外となっています。

 しかし、全国の市街化区域内農地面積は、9万2800ヘクタールで、そのうち1万4584ヘクタールが宅地並み課税にならない農地課税で相続税猶予制度の対象となる生産緑地として登録されているものの残りの7万8216ヘクタールの農地は、固定資産税は宅地並み課税で、相続税の猶予制度もない農地となっています。

 この8万ヘクタールにも及ぶ市街化区域内農地の保全が急務の課題になっているのです。

 都市計画法の見直しの動機は、人口減少と高齢化の進展にあり、人口急増を前提としている都市計画法では、新たな都市問題に対応できないからです。

 現在、都市計画部会の都市計画制度小委員会で都市計画制度の改正検討を進めており、来年の1月にまとめ、通常国会に都市計画法改正案を提出する予定です。都市農業を発展させるチャンスです。(日本共産党国会事務局・小倉正行)



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp