2009年10月21日(水)「しんぶん赤旗」
風力発電の健康被害続発
民家からの距離など 設置基準が必要
風力発電の大型風車をめぐって、地元住民から健康被害の訴えが出るなど問題が続発しています。
電力会社は把握
直径が80メートルにもなる発電用大型風車を対象とした騒音基準や立地規制は日本ではつくられていません。一般の工場などと同じ騒音の基準が適用されてはいますが、回転する大型羽根特有の低周波音の騒音基準はありません。住民からの騒音の苦情に対し、大型風車を設置した企業は、工場騒音の基準内にあることを理由に運転を継続する例がほとんどです。
しかし、大型風車は、直径80メートルにもなる羽根が空気をきる音、羽根がついた上部モーターのギア音の騒音のほか、人間の耳に聞こえない低周波音を出すのが特徴です。
栃木県足利市にある足利工業大学で今年開かれた風力発電セミナーでは、この低周波音の健康被害の深刻さを前から製造会社や電力会社が把握していたことを、開発当事者が自らの体験などをまじえて報告しました。
その被害は、音のうるささとは全く様相が違い、不安感・いらいら、めまい・はきけ、耳鳴り、頭痛や不眠など。夜間静かになるとよけいに悪影響を受ける特徴があり、強風時には雷のような衝撃音として体感することもあります。
低周波音は、レベルそのものを正確に測定することも容易ではなく、フランスなどでは民家から1500メートル以上離れた場所に大型風車を設置する基準が制定されています。カナダでは1500メートル以内に民家がある場合、きびしい環境影響評価を求めていたり、日本よりきびしく規制していたりしています。
しかし、静岡県伊豆半島の東伊豆町の熱川温泉別荘地に建設された10基の発電用大型風車は、別荘の民家から約300メートルという近くに建設されました。静岡県の風車建設ガイドラインは、人家との距離を300メートル以上離すとしています。同県浜松市、山形県酒田市、愛知県豊橋市の「200メートル」というガイドラインもあります。
羽根の破片飛散
熱川温泉別荘地の大型風車が落雷で破損した事故では、350メートル離れたところに羽根の破片が飛散し、ガイドラインの基準の欠陥が浮き彫りになりました。
別の落雷事故で東伊豆町の大型風車が運転停止していた7月、同町の三井大林熱川自治会は、風車運転中の健康影響について住民120人を対象に調査しました。有効回答77人中82%が、運転停止でいらいら・不眠、頭痛などの症状が改善されたと回答しました。風車からの距離が近いほどより症状の改善が高いという特徴がありました。
こうした問題の根源には、周辺住民に低周波(騒音)被害を招くことを政府やメーカーなどが早くから把握しながら、政府が環境影響評価法の対象とせず、安全基準や環境基準をつくらなかったためです。
大型風車の立地指針の策定と環境影響評価の義務付けとともに、健康被害を起こす「欠陥風車」の運転規制や撤去が急がれます。(宇野龍彦)
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