2010年1月21日(木)「しんぶん赤旗」
主張
経労委報告
企業の一人勝ちは許されない
日本経済団体連合会(日本経団連)が、企業側の春闘対策方針である「経営労働政策委員会報告」を発表しました。ことしのテーマは「危機を克服し、新たな成長を切り拓(ひら)く」ですが、危機をどう克服するのか、「報告」からまともな内容は見ることができません。
社会的要請に背いて
日本の経済危機を深刻にしている最大の原因は、賃金の低下や不安定雇用によって生活の土台が崩れ、消費が冷え切っていることにあります。危機の克服にはまず、賃金、雇用の改善を思い切ってすすめ、輸出依存から内需主導の経済に切り替える必要があるという議論が広くおこっています。ことしの春闘は、この方向に向かう契機にすべきです。
「経労委報告」は、こうした社会的な要請に完全に背を向けています。主張の中心は「アジア新興国」をターゲットにした相変わらずの輸出頼みです。そのための国際競争に勝つには「総額人件費管理の徹底」が必要だとして、ベースアップも賞与・一時金も困難だ、厳しいといい、定期昇給の凍結にも踏み込むなど、ひたすら賃下げとの考えが露骨に表れています。
今回の「報告」では「雇用の安定・創出に向けた取り組み」という一章を設けています。「派遣切り」など大企業の無法行為にたいする社会的批判を気にしたとみられますが、内容は国の雇用調整助成金制度を活用して雇用確保に努力し「雪崩」を緩和したという類(たぐい)の、言い訳ばかりです。雇用保険制度の適用拡大など政府頼みの主張を並べるだけです。
非正規雇用の増大についても「報告」は、サービス産業の成長や労働者側の意識の変化などを主な原因にあげています。さすがにそれだけではまずいと思ったか、国際競争の激化で企業の存続をかけて「非正規」を活用せざるをえない側面があったと認めています。しかし「非正規」の多寡を論ずるのは建設的でないとして「雇用は正社員中心に」という要求に応えようという姿勢はありません。
大企業にはありあまるほどの体力があります。企業の内部留保は、この10年間で200兆円から400兆円に異常に増えています。一方、雇用者報酬は1997年から2009年の間に27兆円も減っています。経済の安定した成長のために、大企業はいまこそ巨額の内部留保を、賃金、雇用の改善、社会保障の充実に活用すべきです。内部留保は「会計上の概念」で現金などは手元にはないから「取り崩せない」などとする「報告」の弁明は、社会的責任をわきまえない情けない姿勢です。
国民的なたたかいこそ
政府も「平成21年版労働経済の分析(労働経済白書)」で、企業の利益が株主配当と内部留保の増加に用いられる傾向が強まり、賃金の支払いに向かう部分は大きくなかったと指摘しています。そして、企業が賃金抑制傾向を強め、賃金水準の低い非正規の労働者の活用で抑制したことが「すそ野の広い消費と国内需要を生み出すという点で、大きな障害となった」と分析しています。
賃上げも雇用もかたくなに拒否する姿勢からは危機克服の展望は出てきません。内需主導の経済への転換めざし、大企業に社会的責任を果たさせる国民的な共同のたたかいが重要です。