2010年2月18日(木)「しんぶん赤旗」
旧来の悪政の根本にメスを入れ、政治の転換にふみだす予算に
2010年度予算の組み替えを要求する日本共産党の提案
2010年2月17日 日本共産党国会議員団
日本共産党国会議員団が17日に発表した2010年度予算の組み替え要求は次の通りです。
国民の暮らしはいま、底なしの悪化を続けている。失業率は急上昇して5・1%に達し、企業倒産は3年連続で増加している。昨年の消費者物価はマイナス1・3%と過去最大の下落を記録し、デフレの様相を強めている。2010年度の政府見通しでは成長率はプラスだが、雇用者報酬はマイナス0・7%とされ、家計の所得が改善する見通しはたっていない。
この経済危機から国民の暮らしをまもるためにも、政治の根本的な転換が求められている。日本経済は、「リーマン・ショック以前」の10年間に、GDPの伸び率がわずか0・4%、雇用者報酬はマイナス5・2%と、G7(先進7カ国)のなかで、もっとも成長力のない脆弱(ぜいじゃく)な経済になっていた。そこに世界的な経済危機が襲いかかったことで、景気、経済の打撃は極めて深刻になっている。自公政権が「構造改革」、「成長戦略」の名ですすめてきた「強い企業をもっと強くすれば、経済が成長し、暮らしもよくなる」という路線は、完全に破綻(はたん)しており、この抜本的な転換こそが、経済危機打開の道である。
鳩山首相は施政方針演説で「いのちを守る予算に」といったが、そのためには、大企業の巨額の内部留保と利益を社会に還元させて雇用・中小企業をまもること、自公政権が続けてきた社会保障費削減路線による「傷跡」を是正するために社会保障の拡充をはかること、軍事費と大企業・大資産家減税という「二つの聖域」にメスを入れて財源を確保し、庶民増税の不安を解消すること――この「三つの転換」が必要である。こうした政治の転換こそ、昨年の総選挙で自公政治に審判をくだした国民の願いにほかならない。
政府予算案には、生活保護の母子加算復活や公立高校授業料無償化など、国民の要求と運動を反映した部分的前進もみられる。しかし、全体としては、旧来の政治の転換にふみだすものとはなっていない。「政治を変えたい」という国民の願いにこたえるために、以下のような予算の組み替えを行うことを要求する。
<1>自公政権の社会保障費削減路線がつくった「傷跡」をすみやかに是正する
改悪された医療・介護・福祉制度を元に戻し、拡充への第一歩を踏みだす
国民の暮らしをまもるには、自公政権の毎年2200億円の社会保障費削減路線によって傷つけられた医療・介護・福祉制度などのすみやかな再建が不可欠である。この点で、政府予算案には、大きな問題点がある。
後期高齢者医療制度の廃止を先送りしたうえに、政権獲得後の自らの言明にも背き、保険料値上げなど制度の被害をさらに拡大しようとしている。障害者自立支援法の「応益負担」を中途半端に残し、かつて引き上げに反対した医療費の窓口負担も温存しようとしている。こうした先送りや中途半端な対応ではなく、社会保障費削減路線がつくりだした「傷跡」をすみやかに是正し、社会保障を削減から拡充へと転換すべきである。
――後期高齢者医療制度をすみやかに廃止し、老人保健制度に戻す。それに伴う国保の財政負担を国が補填(ほてん)する。
――高すぎる窓口負担が、低所得者を中心に深刻な受診抑制を引き起こし、国民の健康を脅かす事態が拡大している。他の先進国では当たり前の“窓口負担ゼロ”の医療制度をめざし、その第一歩として高齢者と子どもの医療費を無料化する国の制度を創設する。国保料(税)を1人1万円、国の責任で引き下げ、保険証取り上げを中止する。
――自公政権が削減しつづけた診療報酬を引き上げ、病院も開業医も、急性期も慢性期も、地域医療を支えるすべての医療機関が十分な医療を提供できるようにする。
――介護保険の国庫負担割合を引き上げ、保険料・利用料の減免制度をつくる。介護サービスの取り上げを中止する。介護現場で働く人の賃金を、国の責任で月4万円引き上げる。
――障害者自立支援法による「応益負担」を福祉・医療ともに全面撤廃する。福祉労働者の賃金を国の責任で引き上げる。
――最低保障年金の早期実現による低年金・無年金の解消をめざし、まず、年金が受給できる加入期間の条件を25年から10年に短縮して、無年金者を減らす。
――生活保護の老齢加算を復活する。申請の門前払いなど、生活保護法にも反する保護行政を転換する。
総合的な子育て支援策、教育条件拡充を実行する
仕事と子育ての両立支援、子育てと教育の経済的負担の軽減、「子どもの貧困」の解決など、「子育てがしにくい」という日本社会のあり方をかえる総合的な取り組みを推進する。
――保育所の施設基準の緩和による“つめこみ”の拡大をやめ、国の責任で認可保育所を大幅増設し、待機児童の解消をはかる。保育への公的責任の放棄や保育料への「応益負担」導入など、保育制度の改悪を中止し、公的保育をまもる。
――子どもの貧困の解消にむけ、就学援助の国庫補助の復活と拡充、ひとり親家庭への支援の強化などをはかる。
――特定扶養控除の縮減と一体となった政府の高校無償化案では、一部で差し引き負担増となる世帯が生じかねない。その救済策を講じるための予算を確保するとともに、私立高校生への支援金を大幅に増やして、私立高校についても実質的な無償化に向けてふみだす。奨学金の無利子化、返済免除制度の拡大、給付制奨学金の創設を行う。
――「30人学級」の実現にふみだすため、教員定数の改善を行う。
――自公政権のもとで削減されてきた国立大学運営費交付金の復元、私立大学助成の拡充をはじめ、高等教育や科学研究予算を増額する。舞台芸術や映画などの重点支援事業や、地域スポーツ振興の予算を拡充する。
<2>経済危機からくらしを守るため、雇用と営業の安定、地域経済の活性化をはかる
大企業の内部留保と利益を社会に還元させ、雇用と中小企業の経営の安定をはかる
大企業がいくらもうけても、企業内部に蓄積されたままで国民の暮らしに回らない――これが日本経済のまともな成長力を大きく損なっている。大企業に雇用と中小企業への社会的責任を果たさせるルールを確立することを通じて、大企業の内部留保と利益を社会に還元させることが必要である。
――“非正規社員から正社員への雇用転換”を雇用政策の中心にすえる。「派遣法」改正にあたっては、製造業派遣の全面禁止、「専門業務」の抜本的見直しなどを行う。また、3〜5年の先送りを行わず速やかに実施する。
――全国一律の最低賃金制度を確立し、当面、時給1000円以上に引き上げる。中小・零細企業には、そのために必要な賃金助成を行う。
――失業の長期化の実態をふまえ、失業手当給付期間の延長と、保険未加入と給付期間終了後の失業者への生活援助制度創設をはかる。
――中小零細企業の資金繰りを支援するために、信用保証協会の「緊急保証」制度を全業種対象にするだけでなく、信用保証を急減させた「部分保証」制度を廃止し、全額保証に戻す。
――下請代金法の厳正な執行を行い、大企業による不当な単価の引き下げ、仕事の一方的打ち切りなど、無法を一掃する。下請代金法の執行にあたっては、下請け企業からの申告や書面調査にのみ頼る方式をあらため、受け身でなく主導的に検査する態勢へと転換するとともに、下請検査官の抜本的増員をはかる。下請振興法を実効あるものとするために、下請振興法と振興基準にてらして取引の実態、労働条件の実態がどうなっているかをつかむ実態調査を行い、それにもとづく総合的対策をはかる。「日本の宝」である町工場を守るため、工場の家賃や機械のリース代などへの緊急の直接支援を行う。
――新製品開発などへの支援、中小企業向け官公需の拡充などで、中小企業の仕事を増やす。環境・福祉など地域経済をささえる中小企業を支援する。商店街・まちづくりへの支援を強化する。
農林漁業、地域経済の活性化、環境対策などの予算を拡充する
米価は低落を続けており、農家の打撃は深刻である。政府の戸別補償制度は、コメしか対象にしない、全国一律で生産費をきちんとカバーしない、減反の押し付けを条件としている、FTA(自由貿易協定)推進と一体などの重大な問題がある。
――農家が安心して農業にはげめるよう、主要な農産物の価格保障・所得補償にふみだす。米価の下支えのために、政府案の戸別補償の対象外となっている現在農家が販売中の2009年産米を対象に、生産費をつぐなう価格で、備蓄用のコメとしてただちに買い入れる。
――米の値崩れの要因となっている、不要なミニマムアクセス米の「義務的」輸入は中止する。日本農業に打撃を与えるFTA、EPA(経済連携協定)の交渉は、ただちに中止する。「食料主権」を保障する貿易ルールを追求する立場から、WTO農業協定を抜本的に見直す。
――木材の野放図な輸入を抑え、国産材を優先的に使う公共事業や住宅建設を進め、国産材の需要を拡大する。森林を保全するための作業道の整備を充実させる。
――漁業者の経営をささえるため、大手スーパーなどの買いたたきをやめさせ、魚価安定制度を創設する。
――スーパー中枢港湾や高速道路など、「競争力向上」を看板にした大型事業を抜本的に見直し、国民の生命の安全に直結する危険個所の維持・補修をはじめ、生活密着型の小規模事業を重視する方向に予算配分を切り替え、地域経済の活性化をはかる。
――2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減するとした国際公約を果たすためには、産業界との公的削減協定の締結が不可欠である。住宅用太陽光発電パネルの設置補助金の増額にとどまらず、その他の再生可能エネルギーの利用に関する補助金も大幅に拡大する。自然エネルギーの利用拡大にあたっては、周辺住民に被害を及ぼす新たな公害を引き起こさないようルールを確立する。
<3>「二つの聖域」にメスを入れ、財源を確保する
新政権は、「無駄を削れば財源はつくれる」と言ってきたが、44兆円もの巨額の国債発行と、9兆円近くもの1年限りの「埋蔵金」に依存する、先の見えない予算となった。これは、自公政権が「聖域」としてきた二つの分野――軍事費と大企業・大資産家優遇税制を、温存しているからである。この「二つの聖域」にメスを入れれば、軍事費削減で1兆円、税制で2〜3兆円、あわせて3〜4兆円の財源を確保することはすぐにでも可能である。これを社会保障や教育、中小企業、農林漁業など、国民の暮らしと営業を支える予算の拡充にあてる。
「米軍再編」と自衛隊の海外派兵体制づくりのための予算を抜本的に見直す
軍事費は、前年度より162億円増額されている。「米軍再編」経費が481億円も増額されるなど、「米軍再編」と自衛隊の海外派兵体制づくりをすすめる予算案となっており、これらを抜本的に見直す。
――沖縄の新基地建設計画を撤回し、普天間基地の無条件撤去を求める。グアムの米軍基地増強、キャンプ座間や横田基地における日米司令部機能の一体化、岩国基地への空母艦載機部隊の移転など、3兆円にもおよぶ「米軍再編」計画は、中止、撤回する。
――日米地位協定にてらしても日本に負担義務のない米軍への「思いやり」予算と、沖縄の米軍基地の「たらい回し」をすすめる「SACO(沖縄特別行動委員会)関係費」を全額削除する。
――「海賊対策」の名によるソマリア沖・ジブチへの派兵をやめる。「ヘリ空母」など、海外派兵型装備の導入・開発をやめる。アメリカの先制攻撃戦略の一翼をになう「ミサイル防衛」の経費や、宇宙の軍事開発利用を拡大するための関係予算、新型戦車導入費などを削除する。
大企業・大資産家優遇減税を改める
――研究開発減税をはじめ、もっぱら大企業に利用されている租税特別措置を大幅に整理・縮小する。これまでに大幅に引き下げられた法人税率を、大企業については段階的に引き上げて元に戻す。
――アメリカやイギリスでも実施されようとしている所得税の最高税率の引き上げを日本でも実施して、98年以前の税率に戻す。
――欧米に比べて異常に優遇されている大資産家の証券取引への課税を強化するため、当面ただちに、株式配当や譲渡所得への税率を10%に引き下げている証券優遇税制を廃止し、本則の20%に戻す。資産家優遇の贈与税の減税を中止する。
あらゆる分野の無駄にメスを入れる
――320億円もの税金を政党が分け取りする政党助成金、使途不明の内閣官房機密費をはじめ、歳出のあらゆる分野の無駄にメスを入れる。企業・団体献金をただちに禁止する。官僚の天下りを全面禁止し、政官財の癒着を断ち切る。
――雇用保険特別会計の積立金(10年度末4兆円)を雇用対策に、使われずにたまっている原発の周辺整備基金(1000億円)を自然エネルギー推進に活用する。
消費税増税へのレールを敷く動きに反対する
――消費税は、所得の少ない人に重くのしかかる最悪の不公平税制であり、増税にむけてレールを敷こうとするあらゆる動きに強く反対する。
――消費税増税法案を成立させることを規定した昨年の税制改正法の付則104条は、ただちに廃止する。