2010年3月10日(水)「しんぶん赤旗」
「日米核密約」に関する「報告書」について
2010年3月9日 日本共産党幹部会委員長 志位 和夫
1
政府は、9日、日米間の密約問題に関する「有識者委員会報告書」を発表した。日米密約問題の解明は、新政権が総選挙中に国民に公約したことであり、日本共産党は、この問題に一貫してとりくんできた党として、昨年9月10日の党首会談で調査に協力することを表明し、資料の提供などをおこなってきた。
しかし、発表された「報告書」の内容は、一連の密約のなかでも最大の焦点となっている「日米核密約」について、重大な問題点をもつものとなっている。
2
「日米核密約」とは、日本に寄港・飛来する米艦船・航空機の核兵器搭載について、安保条約第6条の「事前協議」の対象外とし、この方式での核持ち込みを、条約上の権利としてアメリカ側に認めたものである。2000年の国会審議で、不破委員長(当時)は、1960年の日米安保条約改定時に結ばれた「討論記録」という決定的事実を示し、「日米核密約」の存在を明らかにしてきた。
「報告書」の最大の問題点は、「討論記録」の存在を認めながら、「討議の記録2項Cだけをもって、日米間に核搭載艦船の寄港を事前協議の対象外とする『密約』の証拠と見ることは難しい」、「日米両国間には、核搭載艦の寄港が事前協議の対象か否かにつき明確な合意はない」などと、「討論記録」が核持ち込みの密約だったことを否定していることである。
3
これはまったく成り立たない議論である。
(1)「討論記録」は、第1項で、『岸・ハーター交換公文』として発表された『事前協議』についての取り決めがのべられ、第2項で『交換公文』の解釈についての了解事項がのべられている。核兵器にかかわるのは、第2項AとCで、Aで「事前協議」の対象となるのは、核兵器の日本への持ち込み(イントロダクション)とその基地の建設だと限定し、Cで「事前協議」は、米国の軍用機の飛来(エントリー)や艦船の港湾への立ち入り(エントリー)は、「現行の手続きに影響をあたえるものとは解されない」と明記している。「現行の手続き」でゆくとは、それまで慣行とされてきた米軍の自由勝手な核持ち込みを認めるということである。このように、「討論記録」は、それ自体が、核持ち込みの密約そのものである。
(2)「討論記録」が、日米間の公式の合意文書であり、日米安保条約の一部をなすものであることは、両国政府間でのこの文書の取り扱いからも疑問の余地なく明確である。
1、1960年1月6日、この「討論記録」に、藤山外相とマッカーサー大使が、頭文字署名をした文書を交換している。マッカーサー大使のハーター国務長官あての当日の報告電報によれば、この時、双方は2通の原本に頭文字署名したあと、この原本とその複写を秘密文書として指定することを確認しあっている。
2、マッカーサー大使は、1月7日付の国務長官あての電報では、「討論記録」は、「条約を構成する文書群」の一つと呼び、また1月9日付の電報では、「討論記録」を含む「条約文書の全リスト」(全部で17文書)を挙げ、その文書ごとに、日米政府間の締結の方式を分類して示している。
(3)さらに、1963年4月4日には、大平外相とライシャワー駐日大使との会談で、「討論記録」に関する協議がおこなわれ、大使は、「大平氏との間で、秘密の『討論記録』の解釈に関し、現行のアメリカ側説明の方向に完全にそって、完全な相互理解に達した」と本国に報告している。
日米両国政府の間に、「討論記録」をめぐって、解釈の相違があり、明確な合意は存在していなかったなどという「報告書」の主張は、成り立たない。
「報告書」でのべられている議論――「討論記録」の存在を認めながら、核持ち込み密約の明確な合意が存在していなかったなどという議論は、悪質な歴史の偽造というほかないものである。
4
「報告書」では、核持ち込み密約を否定する一方で、「日本政府は、……核搭載艦が事前協議なしに寄港することを事実上黙認した」、国民にたいして「事実に反する明白な嘘(うそ)をつきつづけた」などとものべている。日本が国是としてきた「非核三原則」が蹂躙(じゅうりん)され、空洞化していた事実を認めたのである。
しかし、こうした「報告書」の立場は、日本政府をさらに深い矛盾においこむ。核持ち込み密約が成立していないにもかかわらず、米国が核搭載艦を事前協議なしに寄港させていたとすると、米国は条約上の権利をもたないまま、無法な核持ち込みを続けていたということになる。そして日本政府は、そうした無法を「黙認」していたということになる。条約上の権利がないままおこなわれてきた核持ち込みにたいして、政府はいったいどういう態度をとるのか。今後、こうしたことを起こさせないためにどういう手段をとるのか。そのことが問われることになる。
5
核持ち込みの密約問題は、けっして過去の問題ではない。アメリカは、水上艦艇から核兵器を撤去したが、攻撃型原潜に必要があれば随時、核巡航ミサイル「トマホーク」を積載する態勢を維持している。さらに、米国が「有事」と判断したさいには、核兵器の再配備をすることを宣言している。「日米核密約」のもとで、日本に核兵器が持ち込まれる仕組みと体制は引き続き日本列島を覆っているのである。
日本共産党は、「報告書」が「討論記録」の存在を認めた以上、政府が「討論記録」を核持ち込みの密約そのものであることを認めて、それを廃棄し、「非核三原則」の厳格な実施、「非核の日本」にすすむための実効ある措置をとることを強く求めるものである。
日米核密約「討論記録」 全文
核兵器持ち込みの日米密約である「討論記録」の全文は次の通りです。
1、(日米安保)条約第6条の実施に関する交換公文案に言及された。その実効的内容は、次の通りである。
「合衆国軍隊の日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更ならびに日本国からおこなわれる戦闘作戦行動(前記の条約第5条の規定にもとづいておこなわれるものを除く)のための基地としての日本国内の施設および区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする」
2、同交換公文は、以下の諸点を考慮に入れ、かつ了解して作成された。
A 「装備における重要な変更」は、核兵器および中・長距離ミサイルの日本への持ち込み(イントロダクション)ならびにそれらの兵器のための基地の建設を意味するものと解釈されるが、たとえば、核物質部分をつけていない短距離ミサイルを含む非核兵器(ノン・ニュクリア・ウェポンズ)の持ち込みは、それに当たらない。
B 「条約第5条の規定にもとづいておこなわれるものを除く戦闘作戦行動」は、日本国以外の地域にたいして日本国から起こされる戦闘作戦行動を意味するものと解される。
C 「事前協議」は、合衆国軍隊とその装備の日本への配置、合衆国軍用機の飛来(エントリー)、合衆国艦船の日本領海や港湾への立ち入り(エントリー)に関する現行の手続きに影響を与えるものとは解されない。合衆国軍隊の日本への配置における重要な変更の場合を除く。
D 交換公文のいかなる内容も、合衆国軍隊の部隊とその装備の日本からの移動(トランスファー)に関し、「事前協議」を必要とするとは解釈されない。
(注)2000年に日本共産党の不破哲三委員長(当時)が米政府解禁文書から入手した「討論記録」の訳。これは、外務省の調査で見つかったものと「修辞的な部分を除いて同じ」(同省調査報告書)ものです。