2010年3月29日(月)「しんぶん赤旗」
社会リポート
困惑の生活保護受給者
アパート入居は1カ月後
「生活態度見てから決める」
東京・大田区
東京都大田区では、生活保護の新規受給者は約1カ月、賃貸住宅(アパート)を見つけても入ることができません。毎日、保護基準を超える代金で、カプセルホテル住まいを続けざるをえない状況です。せっかく生活保護を申請し、受給が決まった失業者らに、困惑が広がっています。(今田真人)
「生活保護を受けたい。不況で仕事がなくなり、住む家をなくした。住民票がないと、やっとみつけた仕事も断られる。持ち物を置き、安心して眠れるアパート生活をしたい」。最近までの約3年、路上生活をしてきた男性(53)が今月中旬、友人を通じて本紙記者にSOSを送ってきました。
ドヤの名簿
男性といっしょに大田区内の福祉事務所(蒲田生活福祉課)を訪ねると、その日のうちに生活保護の受給が決定しました。しかし、泊まる場所はありません。
担当のケースワーカーはいいます。
「すぐにアパートに住むことはできない。当面、区指定の宿泊施設(相部屋)か、1泊2100円以下のドヤ(簡易宿泊所)に泊まってもらう。アパートへの入居は、今後の生活状況をみてこちらが決めます」
男性は「孤児院育ちなので、相部屋の施設には入りたくない」と答えました。すると、ケースワーカーは同区内や川崎市内(神奈川県)の合計60軒のドヤの名簿と、当面の生活費5000円を男性に渡しました。「ドヤの領収書をもらってくれば、代金を渡します」
宿泊の拒否
男性は、小中学校に事実上通えなかったため、ひらがな程度しか読み書きできません。心配した男性の友人が、公衆電話から約50軒に電話をかけましたが、すべてから「うちは満室」と宿泊を拒否されました。
あるドヤの経営者は「電話ではだめ。本人が一軒一軒訪ねないと宿泊はできませんよ」と忠告。このため、川崎市のドヤ街に電車で行き、夜遅くまで一軒一軒訪ねましたが、すべて断られました。ドヤは、圧倒的に不足しているようです。
男性はその日、上限を超える1泊3400円のカプセルホテルに宿泊。翌日、福祉事務所に行き、事情を話しました。しかし、ケースワーカーは、今月分の残りの生活保護費6万6000円を渡し、「今度は横浜市で探してください」と、横浜市内のドヤ名簿を渡しました。男性はそこも一軒一軒訪ねましたが、結果は同じでした。
不動産会社
男性は、日本共産党の大田区議、大竹辰治さん(58)が紹介した不動産会社も訪ねました。すぐに月5万円のアパートがみつかりました。生活保護の住宅扶助の上限、月5万3700円を十分満たす条件です。
不動産会社が福祉事務所にきくと、担当者は「1カ月ぐらい生活態度をみてから決めるのが区の方針だ」と説明。不動産会社も驚いていました。
男性は現在も、プライバシーもないようなカプセルホテルに連日宿泊。このままだと、支給された保護費も月末を待たずに底を突くと頭を抱えています。
厚生労働省の担当者は「アパートが見つからないのなら別だが、大田区のやり方は通常、考えられない。都を通じて事実確認をする」(社会・援護局保護課)と話しています。
新たな「水際作戦」、姿勢ただせ
日本共産党の大田区議、大竹辰治さんの話 生活保護法は、憲法25条に基づく法律で、その第30条に「居宅保護」の原則が定められています。アパートに住むということは、仕事を探す上でも人間的な生活を送る上でも、欠かせないことはだれでもわかることです。
こういう生活保護受給者の基本的権利を認めない区当局の姿勢は許せません。これまでは「水際作戦」ということで、生活保護の申請を門前払いする姿勢が横行していました。それはなくなったようですが、今度は、アパート入居をなかなか認めないというやり方です。これでは新たな「水際作戦」ともいえる事態です。日本共産党区議団として、区当局にその姿勢をただすよう、要請していきたい。
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