2010年3月30日(火)「しんぶん赤旗」
国公法弾圧堀越事件判決
守られた「表現の自由」
「公務員の政治活動」は世界の流れ
「原判決を破棄する。被告は無罪」―。29日、東京高裁であった国公法弾圧堀越事件の判決。裁判長が判決主文を読み上げると、法廷内に歓声がわき上がりました。高裁判決は、公務員の一般的な政治活動に刑罰を与えることは憲法違反だと明確に表明した意義あるものです。同時に、一審以来6年以上の裁判をたたかってきた元社会保険庁職員の堀越明男さん(56)をはじめ、全国で言論・表現の自由を守れと運動し、堀越さんを支援してきた人たちを大きく励ますものです。(阿曽隆)
東京都の目黒社会保険事務所に勤務していた堀越さんは、休日に職場と関係のない自宅近くで、「しんぶん赤旗」号外などを静かにポストに投函(とうかん)していただけです。それを警視庁公安部が、のべ171人もの警官を動員。1カ月間にわたって堀越さんを尾行・監視し、ビデオで撮影するなど、堀越さんのプライバシーと人権を著しく侵害しました。公安警察は、堀越さんを逮捕したうえ、日本共産党東京・千代田地区委員会を家宅捜索するなど、事件は当初から日本共産党と民主勢力への弾圧とビラ配布への萎縮(いしゅく)効果をねらったものであることは明らかでした。
母体の米法 すでに改正
堀越さんが問われた国家公務員法―。現行の国公法および人事院規則による政治活動への規制は、戦後すぐの1948年、GHQ(連合国軍総司令部)によって押しつけられたもので、成り立ちから憲法違反といえるものでした。そのあまりにひどい内容に、当時の政府や法務官僚ですら抵抗したものの力ずくで制定されました。情勢が変化した1950年制定の地方公務員法の制定段階では、政治活動にたいする刑事罰規定がはずされました。母体となったアメリカの法律もすでに全面的に改められ、アメリカでは公務員の政治活動は自由です。
堀越事件の一審地裁判決は、74年の最高裁猿払(さるふつ)事件判決を踏襲しました。同判決は、政治活動の様態、職責を問わず、公務員の政治活動を一律に禁じることを「合憲」としたもの。法曹界からも、大きな批判をあびてきたものです。そのため堀越さんが起訴されるまでの37年間、1人も国公法違反で起訴された例はありませんでした。
弁護団は公判で、憲法が基本的人権として保障する言論・表現の自由を、国家公務員だからといって私生活も含め全面的に制限、禁止する憲法上の根拠はないと主張。必要最小限度をはるかに超えて刑罰をも科す国公法と人事院規則は憲法違反だと論証してきました。
判決はこの点で一審判決について▽堀越さんの行為は、休日に単独で無言で行った行為でもっぱら私人としての立場。行政の中立性への信頼が侵害されるとは抽象的にも考えられない▽公務員全体への悪影響を指摘した一審判決は明らかに行き過ぎ。希薄な理由で表現の自由に法的に制限を加えることは許されない―と批判。そのうえで、国公法は地方公務員法との整合性も含め、法体系的に矛盾があると指摘し、再検討が必要だと提起しました。
刑罰規定は実質無力に
判決は「憲法21条1項の表現の自由は民主主義国家の政治的基盤を根元からささえるもの。国民の基本的人権のうちでもっとも重要なもの」とし、ビラ配布など一般公務員の政治的意見の表明も保障の対象となると指摘しました。国公法・人事院規則の刑罰規定は実質的に無力化されたといえます。
しかし判決は、公安警察の違法捜査には一言もふれませんでした。捜査では、まったくビラ配布と関係のない堀越さんの私生活をもビデオ撮影。その数は33本にものぼりました。堀越さんは犯罪どころか被害者にほかなりません。憲法違反の公安警察には引き続き追及が必要です。
判決は国際自由権規約にふれ、「グローバル化がすすむもとで世界標準という視点から考えられるべき」とし、日本の人権の遅れた現状を指摘しました。国際的にも強い批判を受ける現状を、この判決を機に改めることが求められています。
憲法21条 日本国憲法で言論・表現の自由を規定した条文。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」の2項からなります。
猿払事件 北海道猿払村の郵便局員が1967年の総選挙で社会党候補者の選挙用ポスターを公営掲示場に張ったほか、184枚の掲示を依頼して配布したことが、国家公務員法102条1項、人事院規則14の7に違反するとして起訴された事件。一、二審は無罪としましたが、最高裁は74年、逆転有罪を言い渡しました。
運動発展へ決意を表明
弁護団声明
国公法弾圧堀越事件の高裁無罪判決をうけて、同事件弁護団は29日、「判決は、事実と道理を尊重し、憲法と国際法の原則に沿ったもの。裁判官の勇気ある判断を高く評価する」とする声明を発表しました。
声明はこの間、政治的なビラ配布に対する刑事弾圧事件が相次いでいる中、判決が政治活動の意義を認めたことを評価。判決が、「日本の公務員に対する政治的活動の制限が諸外国と比べても非常に広範なものになっていること」「政治活動を刑事罰の対象にすることの当否、範囲を含め法を再検討するべき時代が到来している」ことを判示したことをあげ、公務員の政治的権利の回復にとどまらず、国民一般の表現の自由にとって貴重な一歩を記すものだとしています。
そのうえで「憲法違反の国家公務員法と人事院規則の改廃にむけ、表現の自由、政治活動の自由を守る運動をさらに発展させるために奮闘する」と決意を表明しました。