2010年4月9日(金)「しんぶん赤旗」

主張

「黒い雨」

被爆者救済拡大への道開け


 1945年の広島への原爆投下直後に「黒い雨」が降った地域は、国が指定した「大雨地域」より広かったことが、広島市がまとめた「原爆体験者等健康意識調査報告」で明らかになりました。

 強い放射能を含んだ「黒い雨」が降った地域は広範囲なのに、政府は「大雨地域」のみを被爆者援護法の「健康診断特例区域」に指定し、それ以外は放置してきました。そのため未指定地域で「黒い雨」をあびた住民は苦しめられてきました。政府の措置が実情に合わないことが明らかになった以上、これまでの措置を抜本的に見直し、被爆者救済を拡大すべきです。

貴重な被爆実態調査

 広島市は2008年6月から11月にかけて被爆体験調査を実施しました。02年に市民1万人を対象にした被爆実態調査を行いましたが「科学的根拠がない」といって政府から拒否されたため、今回は大規模かつ綿密な聞き取り調査を行ったものです。同市とその周辺地域の約3万7千人に調査票を送り、約2万7千人が回答した調査内容を詳細に分析しています。

 調査報告で「黒い雨」を体験した住民が、爆心地や「健康診断特例区域」だけでなく、未指定地域でも多数にのぼっていることが明らかにされました。被爆者健康手帳も健康診断受診者証も受けていない800人以上が、未指定地域で「黒い雨」を体験したことを証言しています。

 その結果、多くの人たちが爆心地から離れた未指定地域で、原爆投下を知らずに強い放射能を含んだ「黒い雨」を浴び、触れたり、口に含んだりしたことが明らかになりました。「黒い雨」が降った地域は政府の指定区域の6倍ともいわれます。

 爆心地に近い「大雨地域」だけを「健康診断特例区域」にするという政府の説明は通用しません。調査報告は「降雨時間」に焦点をあてたことが特徴です。その結果、未指定地域でも「黒い雨」が相当な時間降り、さらされた可能性があることが多くの証言で明らかになりました。

 「黒い雨」は強い放射能を含んでいます。数時間「黒い雨」をあびれば、放射能の影響を強く受けます。「降雨時間」を度外視した政府の対応は問題です。

 見過ごせないのは調査報告が、未指定地域での「黒い雨」体験者が、「放射線による健康不安」のために、「心身健康面が被爆者に匹敵するほど不良」であったと指摘していることです。「健康診断特例区域」に指定もせず、何の対策も採らなかったために、「健康不安を増大させていた可能性がある」と調査報告はのべています。政府の責任は重大です。

すみやかに見直しを

 被爆者援護法の「健康診断特例区域」に指定されれば、公費による健康診断や障害の程度によって被爆者健康手帳の交付にも道が開かれます。「黒い雨」体験者の高齢化が進んでいるだけに、指定地域の拡大は待ったなしです。

 長妻昭厚労相は日本共産党の仁比そうへい参院議員に対して、広島市の調査報告がでれば「重く受け止める」と約束しました(3月9日)。政府が「健康診断特例区域」の指定地域を「黒い雨」全域に拡大し、「黒い雨」で被爆した人々が被爆者援護を受けられるようにすることが緊急に求められます。





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