2010年4月19日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

中小企業に活気

振興基本条例 制定広がる


 全国各地でいま、地域経済を支える中小企業を振興させようと中小企業振興基本条例の制定が進んでいます。北海道帯広市(おびひろし)からの日本共産党の稲葉典昭市議の報告と、条例の持つ意義を解説で考えます。


軸足を地元企業育成に

北海道帯広

地図

 「条例・ビジョン作りの過程で職員が育ち、ネットワークができた。企業誘致ではなく、地域の中小企業育成に軸足が移った」

 北海道帯広市は、2007年4月1日に「帯広市中小企業振興基本条例」を施行してから地域が活気づきはじめています。この発言は、3月12日に調査に訪れた日本共産党の紙智子参院議員らと懇談した、市の担当者の発言です。帯広信金の増田正二理事長は、紙議員との懇談で「信金は地域に資するという理念を忘れず、中小企業を支えていくことが必要。利益を投機で失うのではなく、地域に投資すれば必ずかえってくる」と明言しました。

★ … … ★

 帯広市は、人口17万人で十勝19市町村の中核都市として、産業・経済、教育・文化、行政など都市機能が集積しています。北海道の畑作の中心地、豆類、雑穀の集散地として発展してきましたが、条例制定前は、25年後の35年には人口が3割減ると予想されるなど地盤沈下が深刻な悩みでした。

 私は、1997年に市議会で「中小企業振興基本条例」の制定を提唱。その後帯広民主商工会が制定を求めて市に申し入れました。2005年に中小企業家同友会帯広支部が東京都墨田区の担当課長を招いた研究集会を開き、帯広商工会議所と協働で「条例検討プロジェクト」を設置。市議会の07年3月定例会に「条例」が提案され、全会一致で可決されました。

 「条例」は前文で、「中小企業は、帯広・十勝の地域経済の振興・活性化を図る極めて重要な担い手」「中小企業の振興が、帯広・十勝の振興に欠かせないもの…、関係者の協働で地域振興を図ることによって産業及び地域の発展に資する」としています。さらに市長の責務として「中小企業振興の指針を定める」「必要な施策を講じる」と明記しました。

 「条例」施行後、その具体化のため中小企業団体・金融機関・関連行政機関の18人で構成する「帯広市中小企業振興協議会」が発足。さらに四つの部会が設置され、中小企業経営者を中心に総勢40人による協議会活動が進められました。会合は74回に及び、すべて手弁当。まとめた「中小企業振興に関する提言書」をもとに09年4月から「産業振興ビジョン」が動きだし、それを推進するものとして、「協議会」の後継組織「帯広市産業振興会議」が設置されました。

 「協議会」での議論は関係者の意識を変え、「中小企業振興、地域振興」という視点からさまざまな取り組みが一体的にとらえられるようになりました。

★ … … ★

 例えば十勝産小麦。全国の生産量の4分の1を占め100%精白もされないで移出されていましたが、小麦の製粉工場設置の声が多方面から高まっています。「地域で加工を」と、パンやパスタ、ギョーザやピザなどの製品開発や試食会が行われています。帯広市食産業振興協議会が十勝産小麦を使った商品の経済波及効果を試算したところ、経済波及効果は110倍から140倍という結果が出て、いっそう関心が高まっています。

 帯広市にある「北の屋台」では、地元の食材(牛肉やアスパラなど季節の旬な食材)を各店の創作で提供する企画などを実施、行政も「レシピ集」の発行へと多面的な取り組みになっています。観光拠点施設の整備も、「産業振興会議」の意見も取り入れ、安全安心の食材を使った食文化を中心にした、食の観光として進んでいます。

 まだ動き出したばかりですが、納得いくまで議論したことを忘れずに進めていけば、中小企業振興、地域振興は進んでいくと期待されます。(稲葉典昭市議)


大企業中心から転換急務

党国民運動委員会 吉村文則

 現在、中小企業の振興を目的にした条例は15の都道県、41の区市町で制定されています。とくに、2007年から09年にかけて10の道県、19区市町で制定されるなど、各地で中小企業振興条例の制定がすすんでいます。

 これには、民主商工会や中小企業家同友会、日本共産党などの条例制定運動の取り組みとともに二つの要因があります。

 一つは、地域経済の落ち込みという事実です。1996年度から05年度にかけて1人あたり県民所得が伸びているのは4都県にすぎません。

 二つ目は、地域経済の落ち込みを打開するためには、農林水産業の振興とともに、地域に根ざした中小企業の振興を図ることが重要だとの認識が地域で広く共有されてきていることです。

 帯広市で条例制定に取り組んだ中小企業家同友会の幹部は、人口が減るという予測にたいし、うちは大丈夫という意見もあったが、売り上げが減り、取引先がつぶれたらどうなるか、地域全体をみなくてはダメだ、そのために中小企業が元気にならなくてはと議論したと語っています。

 大阪府吹田市の幹部は、市民税には他市で働く住民の納付もあるが、市内の商工業者の納める税金も少なくない。中小企業の振興をはかってこそ自治体の将来もあると語っています。

 多くの自治体が手っ取り早く企業誘致に取り組んできたが、これではうまくいかないという認識を深めています。地域の自然と文化、歴史を生かした生産とサービスの提供で、雇用と所得を生み出して地域経済を支える中小企業が発展してこそ内発的で地域循環型の振興が可能となります。

 この中小企業振興を自治体の大方針とするのが中小企業振興条例の制定であり、大きな意義をもつ到達点です。同時に、この制定は新たな出発点でもあります。

 条例が制定されても、自治体行政全般にその考えが貫かれるには時間がかかります。条例制定を機に中小企業予算や支援体制を充実させた東京都墨田区などの事例もありますが、条例を制定しても、地元中小企業への官公需発注が増えないケースもあります。

 いずれにせよ、地域経済振興の推進力は、中小企業者、自治体、住民、地域金融機関の協働にあります。条例制定も、制定後の活用も、関係者の相互理解と協働を促進し、住民合意を広げていくことがカギとなります。

 地方の取り組みを実らせるためにも、国政が中小企業憲章制定をはじめ、大企業中心から中小企業を大事にする経済政策へ転換することが急務です。





■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp