2010年5月17日(月)「しんぶん赤旗」

高学歴ワーキングプア解消を

研究者・大学院生ら シンポ

ノーベル賞 益川さんが講演


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(写真)若手研究者問題のシンポジウムで講演する益川敏英さん=16日、東京都内

 ポスドクや大学非常勤講師などの若手研究者が、不安定雇用と低賃金にあえぐ“高学歴ワーキングプア”の現状を解消しよう―。東京都内で16日、シンポジウムが開かれ、研究者や大学院生ら約250人が現状と対策を話し合いました。主催は、労働団体や教職員組合、科学者団体などでつくる実行委員会。

 ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英・名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長が講演しました。若いころ「優秀すぎるから」と採用の断り状が届いたエピソードで笑いを誘いつつ、「比較的日の当たる研究環境を渡り歩いてきた」と自身の研究経歴を振り返りました。現在の若手研究者問題について「基本的には社会の決意の問題」と指摘しつつ、手をこまねいていないで仲間同士の信頼関係を強め運動の輪を広げようと訴えました。

 首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長は、非常勤講師の平均像として年齢45歳、3校で9コマの授業、年収306万円、社会保険未加入96%、雇い止め経験「あり」が半数――を示しました。44%が年収250万円未満と「多くが生活困窮者だ」と述べ、使い捨て・非人間的待遇の改善を訴えました。

 「サイエンス・サポート・アソシエーション」の榎木英介代表は、大学院生に博士課程を避ける現象が起きていると指摘。「研究者離れが進み、文化の分野で国の荒廃が進む」と述べ、社会全体で博士の能力を活用する必要性を強調しました。

 討論で、大学院生の7割が就職問題で将来不安をもっていることが紹介されました。博士号を取得後4年間に四つの職を渡り歩いた、国立大学の任期付き助教(35)は、「長期的展望でじっくり研究しにくい」と述べました。


若手研究者問題 解決へ提言案

 シンポでは、実行委員会が若手研究者問題の解決に向けた提言案を発表しました。「若手研究者の使い捨ての固定化、高学歴ワーキングプアの常態化は、科学技術政策の失政の結果」と指摘するとともに、次のような対策を求めています。

 【緊急に必要な対策】大学や公的研究機関で終身雇用につながる採用枠を増やす▽企業などへの雇用促進▽奨学金の返済猶予条件の緩和。

 【中期的な対策】長期的な視点に立った基礎的・萌芽(ほうが)的研究にたいする資金と人材の確保▽大学、独立行政法人への運営費交付金と人件費の削減政策の撤廃▽任期つき雇用の繰り返しによる研究者使い捨てにならない新しい採用制度の導入。

 【長期的な視野に立った対策】高等教育の公費負担をGDP(国内総生産)比1%(OECD=経済協力開発機構=平均)以上確保▽教員・研究者は正規雇用を原則とする▽就業分野の選択肢を広げるしくみの整備▽中等・高等教育の無償化と給付型奨学金の実現。


 ポスドク(ポストドクター=博士研究員) 大学院の博士課程を修了した後、大学や研究機関で短期の任期付きで研究奨励金や給与などを受けて研究する人。国内に約1万8000人(2008年度、文科省調査)のポスドクがいますが、研究環境、給与、社会保険などの条件はまったく異なります。このほかに研究以外の仕事で生活を支えながら研究を続ける「支援なしポスドク」もいます。





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