2010年5月20日(木)「しんぶん赤旗」
泉南石綿国賠訴訟
亡き夫へ「勝ったよ」
「勝訴」の2文字に、大阪地裁前で300人を超す原告団支援者が歓声を上げました。アスベスト(石綿)による健康被害に対し19日、国が規制権限を行使しなかったことを認め、「第一次的責任」があると示した「泉南アスベスト国賠訴訟」の地裁判決。入院中で石綿肺を患う母親に代わり駆け付けた女性(53)は「本当に感無量。世論を動かし、ノーアスベスト社会をつくりたい」と訴えました。
「全員救済を」原告ら決意新た
5年間もの裁判をたたかった被害者らの切なる願いは、健康被害の早期の全面解決です。
判決後、大阪市北区内で開かれた報告集会では、原告らが壇上に並びました。石綿紡績工場で20年間働いた岡田春美さん(74)は、勝訴ではあるものの「夫は帰ってこない。私たちも元気にはなれない」。それでも「(国の)責任を認めることができて良かった。全面解決まで頑張る」と声を振り絞ります。
「アスベスト国賠訴訟を勝たせる会」代表委員の半田秀男・元大阪千代田短期大学学長らは「国はこれ以上悪あがきするな。もう待てないんだ」と声を強めます。判決内容を説明した弁護団も、「国に控訴させず、被害者全員を救済する運動」の拡大を提起。2陣原告も支援を呼びかけました。
1年前に夫の健一さん=当時(64)をアスベストに奪われた佐藤美代子さん(65)は「夫は、『子どもを育てるために一生懸命働いてきただけなのに、なんでや! こんな病気になったんや』と言っていました。やせ細ってしまって、小さなおにぎりをつくってあげても、吐いてしまいました。片方の気管が詰まって、もう片方は肺がんで圧迫されているためだと後で聞かされました。今日、私たちは勝ちました。これからもパパと一緒にがんばっていきたい。パパ勝ったよ」と泣きくずれました。
一方で、岡田さんの娘、岡田陽子さん(53)ら近隣住民の原告は救済から除外。「あと何年頑張ったら、(工場で働いていた被害者との)差がなくなるのか」と陽子さんは声を落とします。
「政治の場ですべての人を救済する法が整備されるまで頑張る」
早期解決 国は応じよ
弁護団など声明
大阪泉南アスベスト国賠訴訟原告団、弁護団らは19日の大阪地裁判決を受け、声明を発表しました。
声明は、「国の責任を断罪したことは、泉南アスベスト被害の早期救済はもとより、すべてのアスベスト被害について、国の責任の明確化と被害救済のあり方の抜本的な見直しを迫り、これ以上の被害を発生させない万全な規制や対策の強化を求めるものである」と強調。「『生きているうちに救済を!』は原告ら被害者すべての共通の願いであり、被害者全員の救済システムづくりなどを内容とする早期解決に応じることを強く要求するものである」としています。
また、判決が近隣ばく露による被害について因果関係を否定した不当性を指摘しています。
「国は控訴するな」
報告院内集会
19日夕、参院議員会館で開かれた大阪・泉南アスベスト国賠訴訟判決報告院内集会で、原告らが勝訴判決を喜ぶと同時に、すべてのアスベスト被害者救済を訴えました。
蓑田努原告共同代表は「アスベストに肺がおかされ、進行性肺がんと診断された。国は判決を真摯(しんし)に受け止め、控訴しないでほしい。医療の体制も整えてほしい」と発言。
原告の竹井弘子さん(53)は、涙ながらに石綿肺で亡くなった母親の無念さ、苦しみを語り、「たくさんの人たちに支援していただいて勝訴の日を迎えることができた」と語りました。
弁護団の小野寺利孝弁護士が判決の意義を報告。「原告たちの命がけのたたかいで、国の違法性が司法の場で検証された。鳩山内閣は検証結果を受け止め、国の責任で埋もれている被害者をほりおこし被害者の救済と謝罪をしてほしい」と発言。首都圏建設アスベスト訴訟原告団の清水邦彦事務局長(76)が「国は控訴せず、一日もはやくすべての被害者の救済をしてほしい」と訴えました。
集会には与野党の国会議員が出席。日本共産党からは宮本岳志、吉井英勝両衆院議員、山下よしき参院議員が出席し、「補償法制定の第一歩に」と連帯あいさつしました。