2010年5月24日(月)「しんぶん赤旗」
社会リポート
貧困ビジネス
無料低額宿泊所
食事は1日2回・相部屋…
新たに生活保護を受けた元路上生活者がアパートに入れず、「無料低額宿泊所」に送り込まれています。一部には「貧困ビジネス」とよばれることもあるこの施設は、いったいどんなところでしょうか。東京都内の事例をみました。(今田真人)
東京都の担当者によると、「無料低額宿泊所」は、都内に175カ所(定員数5438人、昨年10月1日現在)あります。
元路上生活者の男性(53)は昨年、約4カ月間、大田区内の「無料低額宿泊所」の一つ、「L.C大森中(定員8人)」に入りました。しかし、住環境の悪さに嫌気がさして逃げ出し、生活保護を打ち切られました。この男性は当時の状況を振り返ります。
「私は3人の相部屋に入れられた。食事は1日2回。1週間交代で、3人ずつ当番でつくる。調理人がいないので、まずい食事を出すヤツもいる。食事の内容でよくケンカになりましたよ」
区役所が紹介
都内には「L.C」と名前がつく「無料低額宿泊所」が大田区を中心に6カ所あります。「L.C本部(大田区)」の事務担当の男性は言います。
「うちの寮はどこでも2人から3人の相部屋で、個室はありません。食事は1日2回で、調理人はいない。入所者に自分たちでつくってもらいます。どこでも生活保護費から月9万円前後の寮費を引くので、本人には2万円程度しか残りません」
この男性によると、入所者は区役所などから紹介される生活保護受給者がほとんど。定員に満たない場合は、同区内の公園に職員が行って、路上生活者に声をかけます。そして、区役所の福祉事務所に連れて行って生活保護を受けてもらうのだと言います。
厚生労働省は、2003年7月31日付の通知で、「無料低額宿泊所」の設備や運営などについての「指針(ガイドライン)」を作成して公表しました。指針では「原則個室」の規定が明記されています。
しかし、東京都は、独自の「指針」を定めています。それには「原則個室」の規定はありません。
東京都の担当者は「都の場合は、家賃が高いので、相部屋も可能としている。国の指針も『地域の実情によりこれ(国の指針)により難い場合』の例外を認めている」と説明します。
路上の方マシ
元路上生活者の男性は言います。
「私は、いびきや歯ぎしりがひどい人と相部屋になって困った。共同浴場の湯船は、1人しか入れないほど小さい。部屋には貴重品を置く場所はなく、サイフはビニールに入れて風呂場に持って行った。こんなところにいるぐらいなら、路上の方が本当にましだと思いましたね」
支援者からは「『無料低額宿泊所』に入れて保護し、生活保護とはこんなにひどい制度かと、辞退させる効果を狙っているのか」という声も出ています。
無料低額宿泊所 社会福祉法第2条第3項第8号に定める施設で、「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」をしています。都道府県への届け出が必要。全国に439施設あり、入所者は1万4089人、うち生活保護受給者1万2894人(昨年10月20日発表の厚生労働省調査)。施設数は東京都が最も多く約4割を占めます。寮費として生活保護費のほとんどを徴収したり、劣悪な生活環境になっていたりする場合があり、問題になっています。
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