2010年7月14日(水)「しんぶん赤旗」
「強い社会保障」は雇用増やす?
規制緩和 → 非正規激増も
菅直人首相は「強い社会保障」を掲げ、「介護や保育で雇用を生み出し経済成長につなげる」と述べています。しかし、その中身は…。
菅内閣が6月18日に閣議決定した「新成長戦略」は、医療・介護・保育の分野を「成長産業」として育成し、雇用を生み出すとしています。
「新成長戦略」の具体策は、同じ日に決定された「規制・制度改革の対処方針」や、6月に相次いで決定された経済産業省の「産業構造ビジョン」、内閣府の「子ども・子育て新システムの基本制度案」に示されています。
医療
医療で狙われているのは、現在、例外的に認められている「混合診療」の拡大です。公的保険外の全額自己負担の診療を拡大しようとしています。これが広がれば、国や企業の社会保険料負担は減りますが、国民は重い負担を強いられます。財界が一貫して求めているものです。
保険外診療の拡大には、そこでもうけを上げていくという発想もあります。その一環として海外からの患者受け入れの環境整備を進めようとしています。日本の公的保険に入っていない外国人は保険外の自由診療になり、もうけが見込めます。しかし、医師不足が叫ばれる中で、医療で「稼ぐ」(産業構造ビジョン)立場で海外患者受け入れをすすめることは、医療提供体制にゆがみをもたらしかねません。
介護
介護は、介護保険制度の導入ですでに、保険内で1割負担で受けるサービスと、保険外の全額自己負担のサービスが混在する「混合介護」が制度の基本になっています。
ここでも保険外サービスの拡大が狙われています。生活援助や移送などを保険から外し全額自己負担にすることです。国と企業の負担を減らすとともに、「生活支援サービス」を産業として育成するのが狙いです。
さらに、現在、民間では社会福祉法人に限られている特別養護老人ホームの運営に営利企業を参入させ、ビジネスチャンスを広げることを狙っています。そのために訪問介護などの人員配置・設備の基準を緩めようとしています。
保育
最も大規模な制度改変が狙われているのは保育です。市町村が保育の実施義務を負う現在の保育制度を解体し、保育サービスを保護者が市場で買うものにしようとしています。国の保育所最低基準は撤廃され、現在の所得に応じた保育料は、受けたサービスに応じた料金に変わります。
「産業構造ビジョン」では「経営効率化のインセンティブ(誘引)」のために事業者が料金を自由に決めることを求めています。そうなれば、公定価格である介護以上に、完全に市場化されます。
保育事業者は市場で価格競争し、それによって「公的助成を抑制しながらサービスを質、量ともに拡大」するといいます。
保育料を下げても経営が成り立つように「コストの圧縮」「効率化」が掲げられ、その手法として給食の外部調理の導入があげられています。
現場
介護保険導入で市場化が持ち込まれた介護では、非正規職員が増え、待遇が悪いために離職率が高く人手不足に陥っています。
保育でも「公的助成を抑制し」「コスト圧縮」競争になれば、子どもの保育の質も、保育士の待遇も下がるのは明らかです。現在、公立保育所でさえ半分近くが非正規雇用です。社会保障の市場化・産業化で雇用を増やすといっても、そうしたやり方で増えるのは劣悪な待遇の非正規職員だけです。(西沢亨子)