2010年7月19日(月)「しんぶん赤旗」
主張
B型肝炎和解協議
歴史踏まえた幅広い救済を
B型肝炎訴訟の和解協議が、札幌地裁に続いて、福岡地裁でも始まりました。
B型肝炎は、乳幼児期に強制的に実施した集団予防接種での注射器の使い回しなどが原因でウイルスに感染し、何年もたってから肝硬変や肝臓がんを発症し、時には死に至る恐ろしい病気です。患者らは予防接種を強制した国を相手取り、補償を求め裁判に訴えてきました。和解のテーブルについた以上国は歴史の真実を踏まえ、幅広い救済に応じるべきです。
予防接種は義務だった
全国の裁判所で初めて和解を勧告した札幌地裁は、「救済範囲を広くとらえる方向で」と求めました。にもかかわらず、和解協議での国の態度は、予防接種を記録した「母子手帳」のない人にはそれに代わる記録の提示を求めるなど、相変わらず救済範囲を狭くしようという態度がつらぬかれています。
B型肝炎訴訟の原告のうち、「母子手帳」を持たない人は6割に上ります。数十年前の乳幼児期の記録がないのは当然です。「母子手帳」に代わる記録をといわれても簡単には見つかりません。国が「母子手帳」など予防接種の記録にこだわるのは、集団予防接種が感染の原因になったことへの責任を回避するためといわれても仕方がないものです。
集団予防接種は戦後の予防接種法で「3000円以下」の罰則つきで義務付けられており、「母子手帳」のあるなしにかかわらず、受けていたことは明らかです。予防接種法の制定直後1946年3月31日付の「朝日」は、東京の銀座通りに「天然痘防疫の関所」ができ、予防接種していない人は通さないと、街頭出張接種したことを伝えています。町会単位や職場単位、あるいは旅行者のための駅での臨時接種、時には警察の力も借りて、刑務所まで、「世界医学史上類をみない」規模で実施されました。「母子手帳」などで接種が証明できないからと救済の対象にしないのは、文字通り、患者を切り捨てるものです。
集団予防接種での注射器の使い回し以外、感染の可能性があるのは母子感染ですが、これも母子感染でないことの証明を救済の条件とするのはあべこべです。母親が亡くなっている場合、少なくとも他の兄弟が感染していなければ母子感染ではないと認めるべきで、国がいうように、兄か姉が感染していないと証明されなければだめだと条件を狭めれば、長男や長女、一人っ子などは切り捨てられることになります。裁判所が示した「広く救済する」という原則に反することは明らかです。
国は「加害者」の責任を
B型肝炎の被害者は、肝硬変や肝臓がんに苦しみ、「余命」を宣告されている患者も多く、提訴からすでに10人の原告が亡くなっています。和解協議はスピードが求められています。協議が1カ月に1度といったテンポでは、「命あるうちに一刻も早く解決してほしい」と願う、被害者の叫びに背を向けることになります。
国は、注射器の使い回しなどでB型肝炎に感染する危険を承知で、1988年まで対策をとりませんでした。いわば「加害者」ともいうべき責任は重大です。「加害者」としての責任を自覚するのなら、あれこれ条件をつけて救済対象を狭めるべきではありません。
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