2010年9月9日(木)「しんぶん赤旗」

主張

B型肝炎訴訟

命への償い 国はなぜ認めぬ


 「国はいつまで時間を空費し、謝罪と償いを先延ばしするつもりなのか」。B型肝炎訴訟の和解協議で、国が示した「和解の全体像に関する考え方」(1日)が、被害者の不信と怒りを呼んでいます。

 札幌地裁が和解を勧告してから半年。3回目の協議で、国がやっと示した「考え方」は、「被害者の多くを切り捨てるとともに、賠償額を不当に低く抑え込もうとするもの」(全国B型肝炎訴訟原告・弁護団声明)でした。福岡地裁での協議(6日)でも、国の態度は変わりませんでした。

引きのばしと切り捨て

 B型肝炎訴訟では、国が1994年まで法律で義務づけていた予防接種でウイルスに感染した人たちが、国に損害賠償を求めています。全国10地裁で500人以上が訴えています。乳幼児期の集団予防接種で、注射器具の使い回しによる感染被害を受けたものです。注射器の回し打ちが禁じられたのは88年で、それまで国民のだれもが、感染の危険性にさらされてきました。

 被害者が国に救済を求める訴訟を起こしてから20年近くを経た2006年、最高裁が国の法的責任を認める判決を下しました。しかし、その後も国は実態調査すらせず、救済は実現しませんでした。そのうえ野党時代には政府の対応を批判してきた民主党も、政権交代後、前政権の対応を引き継ぐかのように、具体的な解決策を遅らせ、先送りしていることに、被害者の憤りがいっそう強まっています。

 今回示された「考え方」には、被害者側が到底受け入れられない三つの問題があります。

 ▽発症していない持続感染者(無症候性キャリアー)を救済対象からはずす▽和解金について具体的な金額を示さない▽集団予防接種を受けた事実の立証方法が非現実的―被害者の切り捨てにつながる主張をする政府は、不誠実のきわみです。

 政府が本格的な救済に後ろ向きなのはなぜか。厚労省の推計で感染者は全国に140万人、過去の健康被害では最大規模です。このうちには集団予防接種による感染者も多く含まれます。長妻昭厚労相は国会で「政府全体で、財源の問題も大きくかかわる話なので、協議していきたい」(3月24日、衆院厚労委員会)と答えました。救済内容によっては財政負担が膨らみかねないことが、先送りを重ねさせているのです。

 国が国家事業として行った集団予防接種で、生涯とりかえすことのできない重大な健康被害を負った人が、財政の都合で正当な補償を受けられないなどということがあっていいのでしょうか。国民の命に、この国はどういう姿勢でのぞむのか厳しく問われています。

「時間とのたたかい」

 日本共産党の志位和夫委員長は6月14日の衆院本会議で、最高裁判決後に、政府の謝罪さえきくことなく10人の原告が亡くなっていることをあげて「政府として患者のみなさんに謝罪するとともに、早期全面解決のために、具体的な解決策を示し、誠実に協議を開始すべきです」と求めました。

 肝臓がんや肝硬変などの病をおして和解協議に臨んでいる人たちは「時間とのたたかい」という悲痛な訴えをあげています。この声にこたえ、政府はこれ以上救済を遅らせるべきではありません。





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