2010年10月8日(金)「しんぶん赤旗」
志位委員長の代表質問 衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が、7日の衆院本会議でおこなった代表質問は次の通りです。
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私は、日本共産党を代表して、菅総理に質問いたします。
民主党小沢元代表の強制起訴
証人喚問と真相の徹底究明を求める
まず民主党小沢元代表の政治資金疑惑についてです。検察審査会が、政治資金規正法違反の罪で起訴すべきだと2度にわたって判断を下し、強制起訴となったことはきわめて重大です。国会は、小沢氏の証人喚問をおこない、収支報告書の虚偽記載だけでなく、ゼネコンによる闇献金疑惑を含めた真相の徹底的な究明をはかり、政治的道義的責任を明らかにすべきです。同時に、民主党と総理自身が約束してきた企業・団体献金禁止をただちにおこなうべきです。民主党代表である総理の見解を問うものです。
尖閣諸島問題
日本政府は領有の大義を理をつくして主張せよ
つぎに尖閣諸島問題について質問します。私は、この間の中国漁船衝突事件のような事態を繰り返させないために何よりも重要なことは、日本政府が、尖閣諸島の領有の大義を理をつくして主張することにあると考えます。
日本の領有権は正当であり、中国側の主張は成り立たない
日本共産党は、1972年に見解を発表し、日本の領有には歴史的にも国際法上も明確な根拠があることを明らかにしています。さらに10月4日、より踏み込んだ見解を発表し、日本政府ならびに各国政府にわが党の見解を伝えています。
尖閣諸島の存在は、古くから日本にも中国にも知られていましたが、近代にいたるまでいずれの国の領有にも属さない、国際法でいう「無主の地」――持ち主のない土地でした。日本政府は、1895年1月14日の閣議決定によって尖閣諸島を日本領に編入しましたが、これが歴史的には最初の領有行為となりました。これは「無主の地」を領有の意思をもって占有する、国際法でいう「先占」にあたります。そしてそれ以降、今日にいたるまで、尖閣諸島は、戦後の一時期、米国の施政下に置かれたことがありましたが、日本による実効支配が続いています。以上の歴史的事実にてらして、日本による領有は国際法上明確な根拠があることは明らかですが、まず総理に確認しておきたい。
中国側は、尖閣諸島の領有権を主張していますが、その最大の問題点は、中国が1895年から1970年までの75年間、一度も日本の領有に対して異議も抗議もおこなっていないという事実にあります。中国は、1970年代に入ってからにわかに尖閣諸島の領有権を主張し、その主張の中心点は、日清戦争に乗じて日本が不当に奪ったものだというものです。しかし、日清戦争の講和を取り決めた下関条約とそれに関するすべての交渉記録にてらしても、日本が中国から侵略によって奪ったのは台湾と澎湖(ほうこ)列島であり、尖閣諸島はそこに含まれていないことは明らかです。
日本共産党は、過去の日本による侵略戦争や植民地支配にもっともきびしく反対してきた政党ですが、日本による尖閣諸島の領有は、日清戦争による侵略とはまったく性格が異なる正当な行為であり、中国側の主張が成り立たないことは明瞭(めいりょう)だと考えます。総理の見解を示していただきたい。
政府は歴史的事実と国際法の道理にてらし、領有の正当性を堂々と主張せよ
日本側の問題点はどこにあるか。それは、歴代政府が、1972年の日中国交正常化以来、本腰を入れて日本の領有の正当性を主張してきたとはいえない点にあります。
1978年の日中平和友好条約締結のさいに、中国のケ小平副首相が尖閣諸島の領有問題の「一時棚上げ」を唱えたのにたいし、日本側は領有権を明確な形では主張しませんでした。1992年に中国が「領海法」を決め、尖閣諸島を自国領と明記したさいにも、外務省が口頭で抗議しただけで、政府としての本腰を入れた政治的・外交的対応が何らなされなかったことはきわめて重大です。
そして、今回の事件でも、民主党政権は、「国内法で粛々と対処する」というだけで、領有の大義を根拠を示し、理をつくして主張するという外交活動をおこなっているとはいえません。総理、ここにこそ一番の問題があると考えませんか。
わが党は、日本政府に、こうした態度をあらため、歴史的事実、国際法の道理にそくして、尖閣諸島の領有の正当性を、中国政府と国際社会に堂々と主張する外交努力を強めることを求めるものです。
同時に、中国政府に対しても、今回のような事件が起こった場合、事態をエスカレートさせたり、緊張を高める対応を避け、冷静な言動や対応をおこなうことを求めます。
以上の諸点にたいして、総理の見解をうかがいたい。
経済危機をどう打開するか
家計を応援し、内需を底上げする政策への転換を
経済危機のもとでの国民生活の苦境をどう認識しているのか
つぎに経済危機をどう打開するかについて質問します。
リーマン・ショックから2年。大企業の生産は「V字」回復をはたし、利益を急増させています。しかし、国民の暮らしの実態はどうでしょう。民間企業の賃金は、この1年間で平均23万7千円も減り、過去最大の落ち込みです。多くの中小企業から、「大不況にくわえて急激な円高で、いよいよ立ち行かない」との悲鳴が聞こえてきます。農家からは、米価の大暴落で、「血の気が引いて、みんな真っ暗な顔だ。とても生活ができない」などの声が殺到しており、政府による過剰分の買い上げは急務です。
ところが、総理の所信表明演説では、経済危機のもとで国民生活がどんなに深刻な実態にあるかについての認識がまったく語られませんでした。これはいったいどういうことか。まず国民の暮らしの実態を直視し、苦しみに心を寄せることが、日本の政治に責任を負うものの務めではありませんか。国民生活の苦境をどう認識しているのか、答弁を願いたい。
大企業の「空前の金あまり」――これを投資や雇用にどうやって還流させるか
どうやって国民の暮らしを守り、経済危機を打開するか。この間の日本経済の異常さの一つに、大企業の「空前の金あまり」という現象があります。大不況のもとでも、大企業は、内部留保を1年間で233兆円から244兆円に膨張させ、現預金など手元資金だけでも52兆円に達しています。企業が利益をあげても、そのお金が設備投資や雇用に回らず、使い道のないまま企業の内部に滞留しているのであります。
この巨額の資金を、投資や雇用など生きたお金として日本経済に還流させることが、日本経済の危機打開のために必要不可欠であることは、論をまたないでしょう。それは、総理も、「企業が抱える現預金は200兆円超……(この)資金を国内投資などに誘導する必要がある」とのべているとおりです。
そのために何が必要か。政策投資銀行が日本の大企業3638社を対象におこなった調査報告では、企業が新たな設備投資をおこなう最大の判断基準は、製造業、非製造業ともに、需要の動向にあるという結果を紹介し、「多くの企業で『需要のあるところで生産する』ことが基本方針になっている」と指摘しています。逆にいえば、企業の利益が、投資や雇用に回らず、内部にため込まれてしまうのは、日本経済が極度の需要不足に落ち込んでいるからにほかなりません。
需要といっても、世界経済危機のもとで、これまでのような外需頼み一本やりでは立ち行かないことは明らかです。私は、経済危機を打開する唯一の道は、家計を直接応援し、内需を底上げする政策への転換をはかることにあると考えますが、総理の見解を求めます。
人間らしい雇用の保障を――派遣法抜本改正、最賃引き上げ、就職難の打開
私は、そのために、二つの点にしぼって具体的な提案をいたします。
第一は、人間らしい雇用を保障することです。
労働者派遣法
派遣労働者をはじめとした非正規雇用労働者の解雇や雇い止めは、今年に入ってからも4万2千人に達しています。労働者派遣法を抜本改正し、「雇用は正社員が当たり前の社会」に踏み出すことは急務です。わが党は、「抜け穴」だらけの政府案に対して、製造業派遣の全面禁止、専門業務の抜本見直しなど、派遣労働者から正社員への道を開く抜本的修正案を提案しています。わが党の修正案に対する総理の見解を求めます。
最低賃金
最低賃金を時給千円以上に引き上げることは、民主党の公約だったはずです。今年は労働者の運動で平均17円の引き上げになりましたが、全国平均はなお730円です。730円では盆・暮れ・正月の休み返上で働いても年収150万円。総理、公約した時給千円はいつ実現するつもりですか。財界系のシンクタンクも「最低賃金の引き上げは、国民の購買力を高め、需要を拡大し、最大の成長戦略になる」と主張していることをどう受け止めますか。中小企業への賃金助成を含む支援をとりながら、全国一律の最低賃金制の確立と時給千円以上への抜本引き上げを早急にはかるべきではありませんか。
新卒者の就職難
新卒者の就職難は「超氷河期」といわれる深刻な事態です。学校を卒業した若者の社会人としての第一歩が失業者という社会でいいのか。政府は、二つの方向で経済界に協力を働きかけるべきです。
一つは、新卒者の採用数を確保することです。かつて「超氷河期」といわれた時期に、どの企業も新卒採用を急激に絞り込み、その結果、企業としても社員の年齢構成に大きなひずみが生まれた過ちを繰り返さないことが大切です。
二つは、学業と両立できる就職活動のルールを確立することです。いま学生の就職活動は、「3年生から就活に追われる」、「一つの企業からの、4次面接、5次面接など繰り返しの呼び出し」など、学生の大きな負担となり、大学教育に深刻な障害をもたらしています。卒業後3年間は「新卒扱い」とすることも含め、過熱した就職活動を是正するルールをつくるために、大学、経済界、政府の3者による協議をただちに開始することを提案します。総理の答弁を求めます。
社会保障の拡充を――後期医療制度撤廃、高すぎる国保料の値下げ
第二は、社会保障を削減から拡充に転換することです。
後期医療制度
民主党政権は、「後期高齢者医療制度はただちに廃止」という公約を投げ捨て、廃止を先送りしました。しかも8月20日に決定された方針では、高齢者を「別勘定」とし、給付費の1割を高齢者自身に負担させる「新制度案」をつくり、来年の通常国会に法案を提出するとしています。これは、「姥(うば)捨て山」との激しい怒りをよんでいる現在の制度と、その根本思想においてどこが違うのですか。後期高齢者医療制度はすみやかに撤廃し、老人保健制度にもどし、国民合意でより良い制度への改革をはかるべきです。答弁を求めます。
国保料
いま一つ、看過しがたい重大な問題があります。厚生労働省は、5月19日、全国の都道府県に、国保料の値上げを抑えるために市町村が独自に行っている一般会計からの繰り入れをやめよとの通知を出しています。いまでも1人あたりの国保料は平均で9万625円。高すぎる国保料が払えず、保険証が取り上げられ、命を落とす悲劇が、全国に広がっています。市町村からの繰り入れをやめよということは、異常に高い国保料を、国がさらに値上げせよと迫ることであり、政令市などでは1万円から3万円の値上げになってしまいます。命を削る通知は撤回し、国保への国庫負担の増額で、国保料引き下げに踏み出すべきではありませんか。答弁を求めます。
自民党流の破たんした古い道から抜け出し、暮らし最優先で経済発展を
総理が、真剣に家計と内需を活発にしようと考えているならば、とるべき政策は、いま提案した「人間らしい雇用」と「社会保障の充実」こそが土台になるべきです。
ところが、総理が「新成長戦略」の柱にすえているのは、法人税減税です。しかし、日銀の白川総裁も、わが党議員の質問に対して、「大企業の手元資金は今は非常に潤沢」、「この資金を使う場所がないことを、金融機関の経営者からも、企業の経営者からもしょっちゅう聞く」と答弁しています。「空前の金あまり」状態にある大企業に、法人税減税でさらに数兆円ばらまいたとして、いったいどのような効果が生まれるのか。どうして投資や雇用が生まれるのか。説明していただきたい。内部留保がさらにつみあがるだけではないですか。税収が減り、その穴埋めを消費税増税に頼るとなれば、家計と内需をさらに落ち込ませ、企業の投資や雇用もいよいよ低迷するだけではないですか。
「大企業を応援すれば、いずれ経済が良くなり、家計に回る」――自民党流の破たんした古い道から抜け出し、国民の暮らし最優先で内需主導の経済発展をめざす、政策の大転換が必要だと考えますがいかがですか。総理の答弁を求めます。
米軍普天間基地問題をどう解決するか
「日米合意」の白紙撤回、無条件撤去を
最後に、沖縄の米軍基地問題について質問します。総理は、所信表明で、普天間基地の「辺野古移設」を決めた「日米合意」を推進すると宣言しました。
しかし、沖縄県民の総意は、いよいよゆるぎないものとなっています。今年に入ってからも、名護市長選挙、全会一致の県議会決議、9万人の県民大会、名護市議選挙など、沖縄県民は、普天間基地の閉鎖・撤去、「県内移設反対」という総意を、繰り返し日米両政府につきつけてきました。総理は、沖縄県民の総意をふみつけにした「日米合意」を、民主主義の国で実行できると本気で考えているのですか。もはや不可能であることは、誰の目にも明瞭ではありませんか。答弁を求めます。
しかも、この間発表された民主党政権の初めての「防衛白書」は、「普天間飛行場の代替の施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはない」と言い放ちました。「辺野古移設を受け入れなければ、普天間は返さない」――東京新聞も「これでは恫喝(どうかつ)に近い」と批判しました。このような居丈高な姿勢が許されると考えているのですか。
さらに、米軍は、嘉手納基地の滑走路の改修にともなって、嘉手納基地の周辺空域で訓練を繰り返しているF15戦闘機など百数十機の米軍機を、普天間基地などに目的地外着陸させると発表し、すでにその訓練がはじまり、地元自治体から激しい抗議の声がおこっています。嘉手納基地を使用する航空機の墜落事故は、1982年以降だけで13件15機に達しています。「世界一危険な基地」と裁判所も認定している普天間基地に、さらなる危険を背負わせることは、断じて許されるものではありません。総理、「負担軽減に最大限努力」という言明が口先だけのものでないというなら、普天間基地への目的地外着陸を中止するよう、アメリカにきっぱりと要求すべきではありませんか。
普天間問題の解決の唯一の道は、「日米合意」を白紙撤回し、移設条件なしの撤去――無条件撤去を求めて、アメリカと本腰の交渉をするしかない。私は、総理に、このことを強く求めるものです。
いま沖縄に新基地建設を迫ることは、21世紀の先ざきまで県民に基地との永久共存を迫るものであり、そうした勢力にはおよそ国の独立も平和も語る資格はありません。日本共産党は、国民とともに、21世紀に、「基地も安保もない独立・平和の日本」をめざす決意を申し上げて質問を終わります。