2010年10月20日(水)「しんぶん赤旗」
日航、仕事奪い退職強要
パイロット320人以上に
空白のスケジュール
日本航空は、パイロットや客室乗務員から仕事を奪い、強制的に退職に追い込もうとしています。22日までとなっている「希望退職」募集が目標に達しなかった場合、指名解雇という強硬手段に出ようとしており、重大な局面を迎えています。経営破たんした日航の再建には、安全運航を支える労働者の雇用を守ることこそ必要だと、航空労組連絡会(航空連)は訴えています。
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「驚いた」「自分が人員削減のターゲットだと分かって、力が抜けた」―。パイロット(機長、副操縦士)の320人以上が、9月25日に真っ白な10月のスケジュール表を受け取りました。
リストラ面談日と定休日以外は、すべてが「ブランク(空白)」。始業と終業時刻が明示されず、その日が勤務日なのか休みなのかも分からない状態です。パイロットにとっての職場である操縦席から排除して「隔離部屋」に追い込むような措置です。
会社更生手続き中の日航は、更生計画案で今年度中に1万6千人の人員削減を発表。8月までにパイロットの約800人を目標に特別早期退職を実施しましたが、応募者数が400人弱にとどまりました。
会社は、リストラ対象者だけ10月のスケジュールを空白にして、個人面談を設定。「整理解雇」の人選基準(案)まで示し、面談では「あなたの活躍する場所はない。社外に活躍の場を見つけていただきたい」と言っています。実態は違法な「退職強要」です。
リストラ対象とされているのは、年齢の枠のない「病欠」経験者と、機長55歳以上、副操縦士45歳以上となっています。
「人選基準」での「病欠」基準は、今年度に欠勤41日以上、乗務離脱61日以上など、過去2年5カ月の間に欠勤81日以上や乗務離脱121日以上などとしています。
高い安全性が求められる航空機を操縦するパイロットは、病気やけがの場合はもちろん、風邪薬をのんだだけでも「航空法」の規定により乗務できません。自己申告で病欠します。
身体的理由で、乗務離脱中やフライト時間に制限がある人でも、遊んでいるわけではありません。フライトシミュレーター(模擬飛行装置)で飛行訓練の教官を務めるなど地上業務を行っています。乗務以外の仕事をしていても、会社は、何の制限もなく飛べるパイロット以外は「貢献度」をゼロと位置づけ、リストラ対象としました。
すでに病気やけがが治り、勤務にまったく支障がない人までもリストラ対象とされ、まったく合理性がない人選基準です。
客室乗務員に対しても、会社は570人のリストラ目標で希望退職を募り、9月の応募は190人でした。会社はリストラ目標を660人に引き上げ、一般職45歳以上、国際線先任資格者52歳以上、管理職55歳以上に10月1日から個人面談を行っています。対象者のスケジュールを「自宅待機」にして、面談で「整理解雇もある」と迫っています。
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リストラに道理なし
空の安全脅かす「再建」計画
日航経営破綻の主因、米ジャンボ100機購入 乱造空港へ就航強制
「今の職場は1970年代後半から、80年代のJALの職場と同じです。第2の羽田沖事故が起こるのではないか心配しています」(50代機長)
日本航空は、小説『沈まぬ太陽』(山崎豊子著)に描かれたように、物言う労働組合を排除することで職場が委縮し、重大事故を続発させた痛苦の経験があります。その反省の上に、労働者の努力で安全文化を築いてきました。
「パイロットは過酷な業務のなか、安全運航を守っています」と航空連事務局次長の和波宏明さん(43)。主に北米方面の国際線を飛ぶ機長です。
飛行時間の多いときは、月80時間を超えてフライトし、12時間以上の航路を3、4往復しました。
「前後の準備時間を入れれば1回15〜16時間以上拘束され、ホテルに着いたらベッドに倒れこむように寝ます」。何度も日付変更線を横断すると、体内時計が狂い、体がふわふわするといいます。乗務後の休日でも回復しないときは、自主的に有給休暇をとる人もいるなど、パイロットは特に体調管理に神経を使います。
「物言えぬ職場」
和波さんは、5月14日、半年ごとの航空身体検査で不整脈と診断されました。手術を受け、4日間で退院。医師からは「この程度でも手術するとは、パイロットは厳しいのですね」と言われました。
経過が良好であっても、規程で手術後6カ月間は国土交通省の航空身体検査を受けられないため、現在は地上勤務。乗務離脱を理由にリストラ対象とされました。
現在、パイロットは、体調不良の自己申告がしづらい状況に追い込まれ、「物言えぬ職場」となりつつあります。
日航は、本当に人員を削減・解雇しなければ再建できないのでしょうか。整理解雇には▽人員整理の必要性▽解雇回避努力義務の履行▽被解雇者選定の合理性▽手続きの妥当性―の4要件が必要となります。
日航は2010年度の収支計画で当初、営業利益253億円と計画していましたが、4〜6月は計画よりも388億円、7月は160億円も上回りました。これは、従業員の頑張りにより、生み出されたものです。雇用を確保しても、十分収支計画を上回ります。再建計画案では、12年度に1175億円の営業利益をあげる計画になっています。
育成15年かかる
和波さんは、「日航の再建とは、運航の安全を守り、特に地方在住者の移動の自由を確保することにあるはずです。多額の費用をかけて育てるのに15年もかかる機長や、それを支える副操縦士を切り捨てては、財産を失うことになる」と強調します。
日航の経営破綻(はたん)の中心は、米国に従属した日本政府の航空行政にあります。
日航は、政府が米国から受けた要求にしたがい、ジャンボ機を100機以上も米国から購入。さらに630兆円の「公共投資基本計画」で乱造された空港(現在98港)に就航を強いられ、不採算路線を抱えました。諸外国と比べ異常に高い着陸料なども大きな負担となっています。
航空の規制緩和で、新規航空会社が高収益路線に参入して低価格競争になり、ますます収益が悪化しました。
日航経営陣もドルの長期先物買いやホテル・リゾート事業、燃料の先物取引への投資など放漫経営で失敗を重ねました。
近村一也航空連議長は「経営破綻の原因を明らかにして、公共交通を守る政策に転換すべきだ」と強調します。
組合の壁超えて
日本航空乗員組合(航空連加盟)は、解雇を回避するためのワークシェアリングなどを提案しています。会社はそれを拒否しており、人員整理の回避義務を果たしているとはいえません。
日航乗員組合や日航キャビンクルーユニオンは、不安のただ中にいる仲間を励まそうと、面談時の応答の相談や事後のケアを行っています。日航乗員組合が9日に行った雇用集会には、JAL労働組合(JALFIO、連合・航空連合加盟)の組合員など、組合の違いを超えて250人のパイロットと客室乗務員が参加しました。
アンケートに声を寄せた30代副操縦士は言います。「整理解雇、絶対反対です。パイロットが仲間を大切にできなくなったら何が残るのでしょう。こんな職場で、安全を一丸となって守れるわけありません。乗員の誇りまで捨てたくありません」
日本共産党国会議員団は、6日に航空連と懇談し、14日、国会内で馬淵澄夫国土交通相に、安全運航を脅かす退職強要を即時中止させ、安全と公共性を最優先にした日本航空再建を申し入れています。