2010年10月20日(水)「しんぶん赤旗」

「富の還流」 焦点に浮上

共産党「内部留保を投資や雇用に」

菅首相「賛成」でも具体策示せず


 深刻な経済危機を打開するために、大企業にため込まれた富をどう日本経済に還流させるのか、が国会論戦の大きな焦点に浮上しています。菅直人首相も「ご提案をいただければ」といわざるをえない論戦をみてみると。(藤原直)


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(写真)パネルを示して質問する笠井亮議員=13日、衆院予算委

 「この巨額の資金を、投資や雇用など生きたお金として日本経済に還流させることが、日本経済の危機打開のために必要不可欠です」。7日の代表質問でこう口火を切ったのが日本共産党の志位和夫委員長でした。

 志位氏は、大不況のもとでも大企業は内部留保を1年間で233兆円から244兆円に膨張させ、手元資金だけでも52兆円に達していることをあげ、「空前の金あまり」が起きていると指摘。巨額の内部留保を、投資や雇用に還流させることを求めました。そして、家計を直接応援し、内需を底上げする政策への大転換を提起したのです。

 菅首相は、「富が広く循環する経済構造を築く必要がある」と答弁しています。

 12日からの衆院予算委員会では、今度は民主党議員が取り上げ注目を集めました。

 城島光力政調会長代理が、この10年ほどを振り返り、「大企業がバブルを上回る利益率をあげた景気拡張期に、正社員が400万人も減った。平均賃金も家計収入も下がりっぱなし。こういう国は世界で日本だけだ」と指摘。「真っ当な再配分で家計を潤さない限り、(デフレは)おさまらない」と強調したのです。

 菅首相は「企業は200兆円ともいえる内部留保を抱えている」と指摘。介護、保育、医療など潜在需要がある分野に「お金が回れば、雇用が発生し、需要が発生し、生産が発生する」などと述べました。

 しかし、どうやって内部留保を還流させるのかのまともな具体策はありませんでした。首相が打ち出しているのは、消費税増税と一体の社会保障への税金投入や、規制緩和策にすぎません。

新卒者16万人分

 日本共産党の笠井亮議員は13日、大企業がこの1年間に増やした内部留保(11兆円)のわずか3・4%を使うだけで、就職も進学もできない新卒者15万7千人を雇って1年間給料も払うことができると指摘。前日、首相自身も「特に力のある企業には人材にも投資をしていただきたい」と答弁していたことにもふれ、経済界に強力に採用数確保を働きかけるよう求めました。

 これには首相も、「おっしゃることは賛成」と答弁。ところが一方で、「何か無理やりに雇用を企業につくらせる手だてもない中で、どうすれば雇用を生み出すようなお金の流れをつくることができるのか」と述べるにとどまりました。ここには、民主党が「新成長戦略」で、金あまりの大企業にさらに減税する法人税減税を掲げるなど、古い自民党流の政治から抜け出せていない弱点が示されています。

 派遣法改正といいながら“抜け穴”だらけの改定にとどまり、最低賃金時給1000円の実現などワーキングプア(働く貧困層)をなくしていくための課題を先延ばしにしているのはそのあらわれです。

 これに対し、日本共産党は、志位氏が代表質問で「人間らしい雇用と社会保障の充実」に絞って具体策を提起したように明確な還流政策を掲げています。これについては、山下芳生議員も15日の参院予算委員会で、正社員への道を開く労働者派遣法の抜本改正などで「人間らしい雇用を保障することは(大企業の内部留保)244兆円を生きたお金として日本経済に還流させ、総理も言っていた『富が広く循環する経済構造を築く』ことになる」と力説しました。

「白書」でも指摘

 「平成22年版労働経済白書」では、政府も、「1990年代半ば以降強まった低コスト志向の雇用システム改革」が「格差を拡大させ、賃金の低下を伴いながら、我が国社会の消費需要の伸びは弱々しいものになった」と認めており、「今後は不安定就業者の正規雇用化」が必要だと指摘しています。

 一方、自民党は、最低賃金の1000円への引き上げや労働者派遣法の改正などを「アンチビジネス的政策」と攻撃(石破茂政調会長)、法人税減税と消費税増税を求めています。これでは還流どころか、内需をさらに冷え込ませ、大企業の内部留保を積みますことにしかなりません。古い大企業中心の政治に浸りきったままです。

 「富を循環」させるには、大企業中心の政治からの転換が必要です。





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