2010年10月23日(土)「しんぶん赤旗」

急浮上 TPP 環太平洋戦略的経済連携協定

日本の農業 壊滅

財界が旗振り 菅政権推進

雇用・地域を直撃


 日本農業と地域の経済・雇用に重大な打撃を与える環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉参加問題が11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に急浮上してきました。TPPは例外なしの完全自由化です。経済連携協定に積極的な菅直人政権に対して、交渉参加の「圧力」をかけているのは財界です。


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(写真)稲刈りをする農家=秋田県八郎潟町

 1日の所信表明演説で菅首相はすでに「参加検討」を打ち出しています。21日夜、首相官邸で開かれた「新成長戦略実現会議」では、日本経団連の米倉弘昌会長が交渉に参加するよう、直接政府に迫りました。

 舞台裏でも、財界は政界に圧力をかけています。財界のある重鎮は民主党政権だけでなく、自民党の農水族にも、「“農家には補助金で対応すればいい。これだけは反対するな”とクギを刺している」(財界ジャーナリスト)といいます。

 22日の閣議後の記者会見で海江田万里経済財政担当相は、「日本もかじを切らなければならない時期が差し迫っている。早い段階に参加の意思を示すべきだ」と積極的な姿勢を示しました。菅内閣は、APEC首脳会議までに「包括的経済連携に関する基本方針」を決定するよう現在閣僚レベルでの検討を進めています。

 TPPは、シンガポール、ニュージーランドなど4カ国が締結し2006年に発効したもの。米国のオバマ大統領も09年11月に東京で演説した際、協定参加の意向を示しました。

 経団連が「新成長戦略実現会議」に出した提言は、「APEC首脳会議の場でTPP交渉への参加を表明」するよう求めています。ここには財界の狙いがはっきり出ています。「アジア地域における経済統合の動きと米国とを橋渡しする唯一の道は、わが国がTPP交渉にできる限り早期に参加することである」。米国のアジア進出をより推進するための橋渡し役がTPPだというわけです。そのことで日本の「戦略的な地位を高めることにもなる」といいます。

 経済産業省はTPPに参加することで輸出額が約8兆円増えるとの試算を明らかにしています。日本の輸出は、一握りの大企業がその多くを占めています。TPPがだれの利益になるのかは明らかです。

 JA全中(全国農業協同組合中央会)は19日、「全国代表者集会」を開き特別決議を採択しました。

 「例外を認めないTPPを締結すれば、日本農業は壊滅する」とした上で、「農家所得が補償されても、輸入は増大し、国内生産は崩壊していく。関連産業は廃業し、地方の雇用が失われる。これでは、国民の圧倒的多数が望む食料自給率の向上は到底不可能」と指摘しています。TPPは農家だけの問題ではなく、地域経済や消費者にも及ぶ大問題です。

 日本共産党の志位和夫委員長は21日の記者会見で「地球的規模で食料不足が大問題になっているときに、豊かな発展の潜在力をもっている日本の農業をつぶすことは絶対に認められません」「TPP交渉への参加には絶対に反対です」と表明しました。

米生産90%減・失業375万人・食料自給率は12%に

 関税を撤廃するTPPに参加した場合、日本の農業生産に対する影響は打撃的です。農水省が2007年に試算したところによると、主食の米の生産量が90%減少します。さらに小麦は99%、牛肉も79%、豚肉は70%などと、それぞれ生産量が激減します。

 国産農産物の大幅な減少によって食料自給率(カロリーベース)は現在の40%から12%という極めて低い水準にまで低下します。国民の食料をほとんど輸入に依存することになってしまいます。

 さらに、国内総生産(GDP)を約9兆円減少させます。雇用にも影響を与え、現在の完全失業者(337万人)を上回る375万人が就業機会を失ってしまいます。

 内閣府が14日に発表した調査によると、現在の食料自給率が「低い・どちらかというと低い」と感じている国民は75%を占めています。TPPへの参加は、食料自給率向上を求める国民の世論に逆行したものです。


 環太平洋戦略的経済連携協定(Trans−Pacific Strategic Econo-mic Partnership Agreement=TPP)は、シンガポールとニュージーランドの自由貿易協定(FTA)を土台に、チリとブルネイを加えた4カ国の協定として、2006年5月に発効しました。アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加する諸国の加入を想定した協定といわれます。

 例外品目なしの100%自由化を目指す協定で、モノやサービスのほか、政府調達や知的財産権など広範な分野が対象で、補完協定で労働や環境も含めることになっています。ニュージーランドのジョン・キー首相は「全分野の自由化を交渉に載せられない国にはTPP参加を勧めない」と述べています(「日経」21日付)。

 現在、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア5カ国の参加をめざし、4締約国を含め9カ国が交渉中です。

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