2010年10月25日(月)「しんぶん赤旗」
円高、デフレ、経済危機をどう打開するか
志位委員長 BS番組で大いに語る
日本共産党の志位和夫委員長は23日放映のBS11の番組「藤沢久美のJUST in!」に出演し、「大企業優先政策からの脱皮」をテーマに、司会の藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク副代表)や、レギュラーコメンテーターの渡辺美喜男『リベラルタイム』編集長の質問に答えました。
政府の「円高・デフレ対応」――自民党流の破たんしたやり方
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渡辺 志位さん。政府が補正予算案を提出するようですが、この円高・デフレ対策案(「円高・デフレ対応緊急経済対策案」)を見てどうですか。
志位 本当に円高、デフレを是正しようと思ったら、家計を直接応援する、内需を活発にする政策が必要ですが、そういうものが入っていない。そして、次のステップとして書いてあるのは、大企業減税のバラマキです。結局、自民党流の破たんしたやり方を繰り返そうというものです。
渡辺 結局、民主党も相変わらず従来型の発想で経済対策を打とうとしているということですよね。志位さんのほうでは、国民の暮らし優先の政策とおっしゃっていますが、内需を底上げするにはどうしたらいいのですか。
日本経済の最大の問題――12年にわたり賃金下落が続いていること
志位 いまの日本経済の最大の問題は、一言でいって、12年間にわたって国民の賃金が下がり続けていることにあります。民間給与は、1997年の平均467万円が、2009年には406万円へと、12年間で61万円も年収が落ちています。月収にすると5万円減です。
この間、正規から非正規(雇用)への置き換え、どんどんリストラをやる、そのなかでこれだけ賃金が下がっている。こんな国はないんです。
これが、デフレ(継続的な物価下落)を生み出し、円高を促進した。ですから、私は、政治がいま力を発揮して、賃金を引き上げるワンパッケージの政策を打ち出すべきだと思っています。
渡辺 企業が一定の収益をあげ、成長していくなかで賃金が上がる。それがいままでのあり方でしたね。
志位 いまはそうなっていない。大企業は、内部留保というため込み金を、1年間で233兆円から244兆円に11兆円積み増し、手元資金が52兆円と「空前の金あまり」です。大企業には、使い道のないお金が滞留している。一方で、国民の賃金はどんどん下がっている。私たちは、大企業のため込み金を設備投資や雇用に回していけるような、お金が循環するような経済構造への転換が必要だといっています。
需要がないところには、投資は起こりませんから、需要を起こす必要があります。そのために求められるのは、人間らしい雇用を保障し賃金の底上げをはかる、社会保障を充実して将来不安を取り除くという二つの政策です。
社会保障の充実とともに、賃金引き上げを促す政策を
渡辺 将来不安があるので消費が伸びない。だから、一定の年齢になったときに社会保障がしっかりとしていることが望まれているのではないですか。
志位 そうですね。自公政権時代に社会保障費の自然増を毎年2200億円ずつ削った。(民主党政権は)その傷跡を直していません。私も、社会保障の安心はたいへん大事だと思います。
同時に、肝心の所得が減っているもとでは、(個人消費を)活発にしようと思っても元手がないわけですから、賃上げを促進する政策を打ち出す必要があります。
具体的には、労働者派遣法の抜本改正、中小企業に手当てをしながらの最低賃金の抜本引き上げ、無法な解雇を抑える解雇規制法、中小企業と大企業の公正な取引ルールをつくり賃金格差をなくすなどです。こういうワンパッケージの政策を打ち出せば、賃金が上がっていきます。そうすれば、内需も活発になるし、そういうなかで健全な形での経済成長もはかられると思います。
大企業の巨額な内部留保が、投資や雇用に回るには何が必要か
渡辺 もう一つは、大企業が研究開発投資や設備投資ができるように、新商品の開発に向けてもう少し優遇していくという手もあるのではないでしょうか。
志位 大企業が何を動機に設備投資をやるか。政策投資銀行が大企業3638社を対象に調査をしています。結果は、結局、「需要のあるところに投資をする」というものです。逆にいうとお金が大企業に244兆円もたまって、投資や雇用に回らない、これは日本経済が極端な需要不足におちいっていることが原因なのです。(このお金は)家計を応援し、需要をあたためる政策をとってこそ、投資や雇用に向かうわけです。
先ほどのべた雇用のルールづくりにくわえ、社会保障の問題では、後期高齢者医療制度の廃止、高すぎる国保料の軽減など、一連の対応をしっかりやっていく必要があります。
円高・デフレをどうやって是正していくか
渡辺 国民が経済的に疲弊している要因というのは、やっぱり円高であり、デフレ経済だと思う。これについてはどう考えますか。
志位 円高については、一部の輸出大企業が、労働者や中小企業を犠牲にして、コスト削減を徹底的にすすめ、突出した「国際競争力」をつけて大量の輸出をやる。これが「円高体質」をつくっている根源だと思います。
この根本要因にくわえて、1990年代後半から、働く人の賃金がどんどん下がり始めた。そのことが、デフレをつくっています。物価を調べてみますと、1997年を100として、2009年には88まで下がっている。
そうしますと、通貨の価値が見かけ上は上がるわけです。これが円高を促進している。しかも、いま日本は超低金利政策ですが、デフレで物価が下がれば実質金利は上がります。世界の投機マネーが円買いをおこない、円高を加速する。
ですから円高、デフレから脱却する道も、処方せんは同じです。働く人の収入を引き上げ、内需を活発にする。そのことによって、デフレや円高から脱却していく。これが大事だと思います。
法人税減税――大企業の「金あまり」をいっそうひどくするだけ
渡辺 法人税を5%下げようという議論が与党から出ています。財務省からは消費税増税の話が出ます。消費税の増税なんかは、さらに日本の需要を減少させる要因になるでしょうね。
志位 もちろん、消費税増税は、経済や暮らしの破壊になりますから、私たちは反対です。それから、法人税の減税、大企業の減税をやったら景気が良くなるという話にもまったく根拠がありません。
わが党の国会議員が、日銀の白川(方明)総裁に質問したところ、「大企業、大銀行の経営者からも『お金があまって仕方がない』『使い道がなくて困っている』という話をみんなから聞く」というのです。帝国データバンクの調査によると、「法人税減税をしたら何に使うか」という問いへのトップは、「内部留保の積み増し」です。
(法人税減税は)結局、大企業の「金あまり」をいっそうひどくするだけで、生きた経済には回っていかない。そういう点でもこれは愚策です。
産業空洞化の原因、その打開の道はどこにあるか
渡辺 「法人税減税は、国内の産業空洞化を起こさないために、日本の企業が海外に出て行かないために、あるいは外資を呼び込むためにおこなうんだ」という与党の主張をどう思いますか。
志位 日本の産業空洞化がどうして起こっているのか。税金が原因ではない。これも結局のところ内需不足が大きな原因なのです。国民の暮らしが痛めつけられて、国内に需要がないから、投資も生まれない、新しい雇用も生まれない。
結局、国内でお金の使い道がないから、海外にお金を持っていこうということで、空洞化が起こってくるわけです。本当に空洞化の対策をやろうと思ったら、やはり家計の直接支援、内需拡大の政策が必要なのです。
それから、よく日本の法人税は高すぎるという議論がありますが、これは事実ではありませんよ。だいたい40%という実効税率は、アメリカも同じでしょ。こういうときだけアメリカをあげないのはおかしい(笑い)。ヨーロッパはだいたい30%くらいです。しかし社会保険料込みで考えれば日本の大企業の負担はドイツやフランスよりも少ない。
さらに日本には、大企業むけに研究開発減税など優遇税制があり、実際に負担している法人税負担率は、大企業は3割程度、巨大企業になると1割、2割まで下がります。高すぎるというのはウソなんです。
新卒者の就職難をどう打開するか
渡辺 いま、大企業が引き締め態勢に入って、新卒者がなかなか就職できませんね。これはどのように対応しますか。
志位 これは企業行動を本格的に変えていく政治のイニシアチブが必要だと思います。
かつての超氷河期といわれた時代、企業は新卒採用をうんと絞りましたよね。そのために、社員の年齢構成に大きな空白部分がつくられました。それで、どの企業も困っていますが、(採用を抑制すれば)同じことが起こるわけです。だから、政府が経済界に対して、新卒採用を増やすための強い働きかけをおこなうべきです。
それから、就活が長期・過熱化して、学業がままならないという問題がある。これをあらためるルールをすぐつくる必要があります。政府と経済界と大学の3者協議をすぐ開始するべきだと提案しています。
「成長しない国」からの脱却――日本共産党の経済成長戦略
渡辺 話をうかがっていると、日本経済について、志位さんも成長すべきだと思っているんですよね。
志位 そうです。
渡辺 成長しなくていいのかな、と思っているのかと思っていましたが、そんなことはないですよね。(笑い)
志位 ええ。むしろこの10年間、日本経済がまったく成長していないというのが大問題なのです。一つの数字を紹介します。1997年に515兆円だったGDP(国内総生産)は、09年には474兆円です(名目暦年)。成長どころか衰退している国なのです。世界の中で、12年という単位でみて、GDPが衰退している国はほかにないんじゃないでしょうか。
渡辺 ええ。リーマン・ショックから2年も過ぎているのにね。
志位 なぜ、こうなったかというと、「大企業を応援して、大企業がもうければ、いずれはその利益は経済に及んで、最後には家計に及ぶだろう」という、いわゆるトリクルダウンの論理で、大企業の応援ばかりをやってきたからです。
しかし、実際には、経済は成長どころか衰退している。やはりここは切りかえる必要がある。トリクルダウンが失敗したのだから、家計を直接応援して内需を活発にするという方向への政策転換をおこなってこそ、本当の健全な経済成長の道が開かれるというのが日本共産党版の経済成長戦略です。
中小企業、農林漁業への本格的な振興策も
渡辺 家計の応援だけで成長できますか。
志位 内需の6割が家計ですからそこが非常に大事です。さきほどそのために雇用と社会保障を良くするといったのですが、さらにいいますとやはり中小企業、農林漁業をしっかりと振興する。そのための本格的対策をうつことが必要です。
渡辺 具体的にはどんな対策でしょう。
志位 農林漁業でいいますと、生産者米価の暴落が大問題になっているのに、政府は暴落を止めるための過剰米の買い上げをしようとせず、放置したままです。過剰米の緊急買い上げとともに、再生産が可能な価格保障・所得補償が必要です。
中小企業については、政府は「中小企業憲章」をつくりましたよね。ところが中小企業予算があまりに少ない。これはせめて1兆円ぐらいの予算をつけて、中小企業の技術の開発、販路の開拓、後継者の育成など、立ち入った支援が必要です。
「非常に考えなければならない大切な話」(司会者)
藤沢 いやー。すごく全体的にうかがいました。なんか一度、私、今日の話をじっくりと考えてみるべきではないかと。非常に考えなきゃいけない大切な話をうかがいました。どうもありがとうございました。
志位 ありがとうございました。
志位氏が出演を終えた後、渡辺氏は「共産党、志位さんのおっしゃっていることは、やっぱり正しい部分もあるからね」、藤沢氏は「もう一度ちゃんと考えたいなとすごく思いました」と感想を語りました。
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