2010年10月29日(金)「しんぶん赤旗」
介護保険、軽度者の利用料増
厚労省示す、40歳未満から保険料徴収も
2012年度の介護保険制度改定を議論する社会保障審議会介護保険部会が28日に開かれ、厚生労働省は高所得者や軽度者の利用料引き上げ、40歳未満からの保険料徴収(現行40歳以上)、軽度者への生活援助サービスの縮小など、負担増と給付減のメニューを論点として列挙しました。
介護保険サービスを使う際の利用料は原則、かかった介護費用の1割ですが、厚労省は高所得者と軽度者の負担割合の引き上げを論点として示しました。
在宅サービスを利用する前にサービスの種類や回数を計画するケアプランの作成については、無料から有料に変更することを論点としました。
軽度者へのサービスでは、掃除や買い物などの生活援助の縮小をあげました。
施設サービスでは、4人部屋などの相部屋の居住費について、現在の光熱水費負担だけでなく室料(家賃)まで徴収することを論点としました。低所得者の食費・居住費を軽減する仕組み(補足給付)の要件に、世帯の負担能力や資産を加えてハードルを高くすることも提起しました。
保険料については、新たに40歳未満の30代、20代からも徴収する方向を論点にあげました。
また、重度者の在宅生活を支えるためとして、介護・看護職員が地域を巡回して1日複数回サービスを提供する「24時間地域巡回型訪問サービス」の導入についても具体的なあり方を提案しました。
委員からは負担増と給付減に反対意見が相次ぐ一方、重度者に重点給付するための財源確保などを理由に賛成する意見も出ました。
11月中に部会として意見をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出する方針です。
解説
何だったのか 政権交代
厚生労働省が28日に介護保険見直し案として示した負担増・給付減のメニューは、自公政権下で検討されていた内容ばかりです。どれも、介護・医療を必要とする高齢者の生活に重大な打撃となります。同日の社会保障審議会介護保険部会では、現場の実態に根ざした反対意見が続出しました。
「認知症は早期発見・早期治療が大切で、軽度者への給付を外してはならない。軽度者の利用料の増額は論外」(認知症の人と家族の会・勝田登志子副代表理事)
「(介護利用計画となるケアプラン作成に)利用者負担が導入された場合、ケアマネジャーを利用しなくなり、適切なサービス利用ができなくなる」(日本介護支援専門員協会・木村隆次会長)
「高所得者でもかなり介護生活が厳しくなるため(利用料)引き上げは好ましくない」(淑徳大学・結城康博准教授)
「(施設の相部屋の居住費を上げれば)個室に入れない低所得者が多床室にも入れなくなる」(日本医師会・三上裕司常任理事)などです。
厚労省は公費の負担割合を現在の5割から6割に引き上げることも論点としました。
しかし他方で、施策を拡充する際は恒久的な歳出削減や歳入確保策で財源を確保するという民主党政権の「ペイアズユーゴー原則」(6月に閣議決定)が、介護保険にも適用されると説明。社会保障の自然増分は予算増が認められるが、新たな制度拡充には「自主的努力(負担増や給付減)で対応せざるをえない」と明言しました。
これは、社会保障制度総体の拡充は一切しないという立場にほかなりません。
同部会の委員からも、「国民が現政権を選択したのは介護保険財政のつじつま合わせを期待したものではない」(全国老人クラブ連合会・斉藤秀樹事務局長)など、民主党政権を痛烈に批判する声があがりました。
社会保障を自公政権のように痛めつければ、国民生活の困難と不安を拡大させ、消費を冷え込ませて、経済が縮小する悪循環を加速させることになります。社会保障を抜本的に拡充する、暮らし優先の政治への転換こそが求められます。(杉本恒如)
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