2010年11月12日(金)「しんぶん赤旗」

国交相「中止」棚上げ発言どうみる

中止の根拠と生活再建策示せぬ民主の弱点が露呈

八ツ場ダム問題 塩川議員に聞く


 八ツ場(やんば)ダムの建設予定地(群馬県)を視察した馬淵澄夫国土交通相が、県知事ら地元首長との懇談で同ダム建設について「一切『中止の方向性』という言葉に言及しない」と表明(6日)したことが波紋を広げています。この問題をどう考えるか、日本共産党の塩川鉄也衆院議員に聞きました。(聞き手・佐藤高志)


写真

(写真)インタビューに答える塩川議員

大きな矛盾に

 ―馬淵国交相の発言をどう見ますか。

 塩川 今回の馬淵大臣の「中止」棚上げ発言は、ダム建設中止の根拠や生活再建策を説明しないなど、中止の明確な足場を持たない民主党政権の弱点が露呈した結果だと思います。

 もちろん、八ツ場ダム建設は、利水・治水という建設目的に問題があり、中止は当然です。住民も長い間、反対運動をしてきましたし、市民団体の中止要求もありました。

 政権交代直後に民主党の前原誠司前国交相が中止を表明したのは、こうした運動とムダなダム建設を見直せという世論を背景にしたものです。

 しかし、民主党政権は、根拠や今後の生活再建策について具体的な説明を抜きに中止を表明したため、一部住民からは「われわれに何の相談もなく、頭ごなしに中止を決めた」と、中止表明の撤回を求める声も上がっていました。長い反対運動の末、苦渋のダム受け入れを決断し、一刻も早い地域再建を願ってきた住民の怒りは当然です。

 今回の突然の「中止」棚上げ表明を受けても、水没地区の住民の間に複雑な思いが広がっています。しかし、こうした発言では「ダム推進」勢力の巻き返しの余地を広げるだけで、より大きな矛盾に陥る懸念があります。

党内でねじれ

 ―民主党はなぜ、ダム建設中止での明確な足場をとれないのでしょうか。

 塩川 民主党は、国会では「八ツ場ダム中止」を主張しながら、地方議会では「推進」「容認」の立場という「ねじれ」の中にあります。

 これに対し、日本共産党は(1)政府として真摯(しんし)な姿勢で謝罪する(2)住民の不安や要望に謙虚に耳を傾け、八ツ場ダム中止の理由を丁寧に説明する(3)生活再建、地域振興策を住民とともにつくりあげる―という住民の理解と合意を得る民主的プロセスが必要だと働きかけてきました。

 しかし、民主党政権は、その後の国会審議でも「できるだけダムに頼らない治水を考えている」(前原前国交相、3月5日の国交委)などというだけで、八ツ場ダム固有の中止理由については語っていません。また、生活再建法案の先延ばしなどの姿勢が、流域住民の理解と合意を得られない根本にあると思います。

資料存在せず

 ―今後、八ツ場ダム問題は、どう考えるべきでしょう。

 塩川 八ツ場ダム中止を求めるこれまでの運動の広がりの中で、八ツ場ダム建設そのものの根拠が問われる事実も新たに明らかになっています。

 国は、利根川水系で200年に1度の大洪水が起きたときの最大流量(基本高水)を2万2千トンと算出し、それを八ツ場ダム建設の最大の根拠としてきました。

 しかし、日本共産党は、過大な基本高水が無駄なダム建設の口実とされてきたと批判してきました。このような追及もあって、馬淵大臣は数値を調査した結果、算出した資料が「確認できない」と明らかにしたのです。

 資料が存在しないということは、八ツ場ダムをはじめとした利根川水系の治水対策の妥当性そのものが問われる大問題です。

 民主党政権は、新たな基本高水の算定について国と流域都県でつくる検証の場で明らかにするとしています。

 しかし、行政内部の検証にとどめるべきではありません。データの全面公開など外部の専門家や市民団体が検証できるようにすれば、八ツ場ダム中止の理由が誰の目にも明らかになり、流域住民の理解と合意を得ることにつながります。

 日本共産党は、開かれた検証とともに、生活再建策についてもより踏み込んだ対策を要求し、今後とも八ツ場ダム中止のために全力をつくす決意です。


 八ツ場ダム 利根川の洪水調整と首都圏の水需要に対応することを目的に、利根川支流の吾妻川中流部、群馬県吾妻郡長野原町に建設される多目的ダム。計画は半世紀以上前に立てられ地元の激しい反対闘争が起きましたが、自民党の政権・県政が反対住民を切り崩してきました。2009年、民主党政権の誕生で中止方針が打ち出されました。





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