2011年1月9日(日)「しんぶん赤旗」

第一生命 不払い40億円の闇

顧客を裏切り 政界工作に躍起


 保険金不払い問題で厳しい処分を逃れるための政界工作、40億円以上といわれる不払い隠し…。生命保険協会の渡辺光一郎会長が社長を務める第一生命(本社・東京都千代田区)をめぐる疑惑が噴出しています。浮かびあがったのは、不正がまかり通る生保業界のゆがんだ体質です。 (生命保険「不正」取材班)


 「第一生命社内で特定候補を応援するのは事実だ。各支社の支部長会議で『○○候補は生保業界に有利に働いてくれる人だ』と支社長が地元の自民党候補への投票を求めることがたびたびあった」(同社元社員の60歳代の男性)

 生保業界の不正を追及する本紙に不払い問題や政界工作などの情報が、1月以降でも数十件も寄せられています。

 庶民の身近な存在である生命保険をめぐる不正への怒りと関心のあらわれです。

 2005年に発覚した不払い問題。判明したのは約973億円という巨額なものでした。金融庁は08年7月に生保10社に業務改善命令を出し、「処分」しました。各社が不払いをすべて出し尽くしたとして、金融庁が“一件落着”をはかったからです。

 しかし、本紙が入手した第一生命の内部文書(表)は、解決どころか被害が拡大していることを示しています。

不払い一覧

 文書は、同社の“金融庁に未報告の不払いリスト”と言うべきものです。文書の日付は処分直後の08年7月22日です。同社は処分直前の同年6月下旬に「第一生命 不払い調査で数万件除外」と報道されました。

 報道で指摘された不払いケース(表左欄「当局に実施確約済」とした「1」と「2」の項目)について同社は、01年度から05年度分にさかのぼって、請求案内することを金融庁に約束しました。

 しかしその他(「3」〜「9」)についても契約者に請求案内をすべきなのに、同社は放置。文書では、「(平成)13〜17年度分」(01年度〜05年度分)などの過去分が対象外にされています。

 しかも同様の不払いケースで、他社が対策をとったことを知りながら、あえて放置する“確信犯”なのです。

 ある生保業界関係者は、「リストにあるケースの不払い額は少なく見積もっても40億円以上だ。同社は不払いを隠し、支払い部門の人員をろくに増強しなかった。そのために日々、寄せられる保険金請求対応に加え、過去分の請求案内で、職場はパンク状態だ」と指摘します。

 こうした同社をはじめとする生保業界の問題隠ぺいや政界工作は、日本共産党の大門実紀史参院議員やマスコミの追及を受けました。

氷山の一角

 同社は不払い隠しの事実を否定してきましたが、昨年11月末に01年度から05年度分の「別病院事案」と呼ばれる三つのケースなどで新たな不払いを公表せざるを得なくなりました。最大で6000件、総額3億7500万円にのぼると説明しますが、これも氷山の一角でしかありません。

 しかも新たな不払い問題では、契約者が請求できずにあきらめてしまう恐れも。保険金請求には医療機関のカルテが必要です。その保存期限は5年となっており、カルテが廃棄されている請求案件が多数存在するからです。

渡辺氏自ら

 一方で、不払い発覚以降、際立つのは生命保険業界の政界工作の周到ぶりです。第一生命は07年度だけで、自民、民主党の金融行政に影響力を持つ“族議員”を中心に44国会議員のパーティー券1200万円超を購入。また大手生保4社で国会議員を飲食接待し、選挙応援を組織的におこなっていました。

 業界の政界工作の先頭に立ったといわれるのが第一生命です。その中でも中心を担ったのは、渡辺氏が部長を務めたこともある同社調査部。関係者によると調査部には、日常的に政界工作に専念する担当者がいるといいます。渡辺氏自身も山本明彦元金融担当副大臣に度々、陳情するなど、暗躍していました。

 こうした政界工作が、07年5月の衆院財務金融委員会の参考人招致での質問時間短縮や第一生命への業務改善命令という軽い処分につながらなかったか、解明が求められます。

写真

(写真)不払いを把握しながら、第一生命が隠すことにした項目のリスト。「1」「2」は、「対応範囲」が「平成13年(2001年)」までさかのぼりますが、発覚していない「3」以下は「19年度(07年)」以降しか対応しないとしています。昨年11月に公表した不払いは「2」にあたります。

(拡大図はこちら)

不払いをめぐる動き

 2005年

 2月 明治安田生命の不払いが発覚

 07年

 2月1日

 金融庁が生保各社に保険業法第128条による調査と報告を命令

 4月13日 

 生保38社が結果を報告。大手・中堅12社で約267億円の不払いが判明

 5月18日 

 衆院財務金融委員会で斎藤勝利生保協会会長(第一生命社長)の参考人招致(政界工作による時間短縮疑惑)

 10月5日 

 第一生命などが金融庁に追加報告。第一生命は「お支払いできる可能性のあるご契約を漏れなく抽出しました」と同社ホームページに掲載

 08年

 6月25日 

 第一生命が不払い調査で数万件を除外したとの報道

 7月3日 

 金融庁が生保10社に業務改善命令

 09年

 8月18日 

 総選挙が公示。第一生命の渡辺専務が選挙行脚

 10年

 3月19日 

 大門参院議員が第一生命の不払い隠しで質問。以後3回取り上げる。衆院では佐々木憲昭議員が追及

 3月28日 

 第一生命が2万件以上の不払い隠しとの報道

 4月1日 

 第一生命が株式会社化。渡辺氏が新社長に

 7月16日 

 渡辺氏が協会長に就任

 11月29日 

 第一生命が、“最大”で6000件の不払いを公表

 ※肩書は当時





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