2011年1月13日(木)「しんぶん赤旗」
主張
B型肝炎和解所見
全面解決へ政府は早く決断を
全面解決へ、菅直人政権の意思と熱意が問われています。全国10の地方裁判所で争われているB型肝炎訴訟のトップをきり、札幌地裁が和解への裁判所の基本的な考え方である「所見」を示しました。
所見は、死亡、肝がん、肝硬変、慢性肝炎を発症した患者への和解金を上積みし、まだ発症していない持続感染者(キャリアー)にも一時金の支払いなどを求め、認定要件も拡大して、「被害者全員救済につながるもの」(全国訴訟原告団・弁護団声明)となっています。
広く救済の道開く
B型肝炎訴訟は、集団予防接種でウイルスに感染した患者らが国に賠償を求めてきたものです。1948年7月の予防接種法施行から、厚生省(当時)が注射針と筒の交換を通達した88年1月まで、実に40年間にわたって注射器の使いまわしを国が放置してきたことにより、被害が拡大しました。
2006年には最高裁で、国の加害責任を認める判決が確定しました。にもかかわらず、その後も国は賠償責任を果たさず、やむにやまれず08年から全国で賠償を求める集団訴訟が提起されました。
この提訴後も、少なくない患者が、何の償いも受けることなく亡くなっています。これ以上いたずらに結論を引き延ばすのではなく、早期の和解と賠償へ、誠意ある対応をすることが国の責務です。
所見は、和解への最大の障害となっていたキャリアーへの賠償について、今後仮に発症した場合の救済を確保したうえ、50万円の一時金、今後の定期検査の費用、交通費などを支払うことを求めています。国は、不法行為から20年を経過し損害賠償を請求する権利はなくなったという民法の規定を持ち出し、キャリアーへの賠償を拒んできました。
キャリアーは、いつ発症するかわからないという不安や恐怖にさいなまれ、就職、結婚、出産などでの差別や偏見にも苦しめられてきました。その痛みを考えれば、十分とはいえないにしろ、和解金の支払いは当然です。
所見は被害者の認定要件でも、母子手帳などでの接種の確認という国の主張にとどめず、個別に裁判所が判断するという方法で広く救済する道を開きました。
国は、原告以外に救済の対象となる患者、感染者は最大計47万人と推計し、巨額の財政負担に「国民の理解が得られない」として、損害賠償を「値切る」態度をとってきました。
国が法律で定め、国民に義務として迫った予防接種で、深刻な健康被害が広がり、多くの人が苦しみ続けています。国の不法行為に苦しむ人が泣き寝入りさせられる国ではなく、当たり前の賠償を受けられる国であってこそ、国民は、ほんとうに安心できるのではないでしょうか。
理解広げる国の責任
政府がやらなければならないことは、賠償には「国民負担をお願いしなければならない」(野田佳彦財務相)などといって原告と国民の分断をはかることではありません。過去に何があったのか、B型肝炎患者がどれほど苦しんでいるかを知らせ、国民の理解を広げることこそ政府の責任です。
細川律夫厚労相は、所見について「真摯(しんし)に検討する」とのべました。国民の命への真摯さが、ほんとうに問われています。
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