2011年1月18日(火)「しんぶん赤旗」

主張

農業「開国」

高騰する食料価格が示す危険


 菅直人首相は新内閣を環太平洋連携協定(TPP)推進派で固め、改造後の初閣議で貿易自由化を政権運営の基本方針に定めるなど、TPP参加を強行する意思を強く示しています。

 TPP参加は農林水産業に壊滅的打撃を与えるとともに、経済・労働の規制緩和で国民に犠牲を強い、国政のゆがみを加速します。広範な農・漁民団体や消費者団体などが反対を表明し、地方議会が次々に反対の決議をあげるなど、菅政権は追い込まれています。「乗り遅れるな」式の浮かれた「開国」論を打破するときです。

交渉の入り口で

 先週開かれたTPPでの初の日米実務レベル協議で、米側は従来の自由貿易協定(FTA)よりも「高いレベルの自由化」をめざしていると表明しました。米国は9カ国によるTPP交渉を主導し、11月に米ハワイ州で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で決着させようとしています。

 日本は交渉の入り口で、コメを含む農産物の関税撤廃など、国境措置の廃止を迫られています。TPP参加が強行されれば、対米従属が深まり、食料自給率「わずか13%」が現実になりかねません。

 菅政権は、「国際競争力」ある農業をつくるとして、「開国」に無理やり合わせて規模拡大を迫ります。日本の条件にあった農業のあり方や国民への食料供給をまともに考える姿勢はみられません。

 日本経済における農業の位置を、前原誠司外相はわずか「1・5%」、与謝野馨経財相は「8兆円産業」といい、取るに足りないとの印象をふりまいています。関連産業や地域経済への影響を踏まえない空論であるだけでなく、経済規模からしか見ない貧しい発想には、農業が豊かな食生活や地域社会、環境を支え、文化までも育んでいることが見えていません。

 安全で安心な食料を供給する基盤はどの社会にも不可欠です。世界では食料価格の高騰が大問題になっています。食料の国際価格は昨年12月、「食料危機」のおそれが高まった2008年の水準を超え、過去最高になりました。

 穀物などの生産国で干ばつや洪水など天候不順が続き、生産量が落ち込んだことが一因です。昨年の世界の気温は05年と並んで過去最高になったと、米政府機関が発表しました。長期的には地球温暖化が食料生産に悪影響を与える可能性が強まっています。今回は穀物ばかりでなく、砂糖や食肉の価格も上がっています。食料需要が世界的に高まっていることも、価格高騰に拍車をかけています。

 国連食糧農業機関(FAO)は、世界的に食料生産を大幅に増加させることが重要だと警鐘を鳴らしています。各国が自国民のための食料生産に力を注ぐべきであり、国内農業をつぶしてまで貿易自由化を推進する菅政権の方針は、世界の流れにも逆行する異常なものです。

食料主権の確立を

 食料主権の確立が必要であり、「開国」論を打ち破る筋道です。大国の干渉を受けずに、国民が自主的に食料・農業政策を決めるべきだとする食料主権は国連でも支持されています。その立場から、実効ある輸入規制や価格保障などの政策を実現することこそ、真の農業改革であり、国民に安定して食料を保障するカギです。





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