2011年2月18日(金)「しんぶん赤旗」

米国の対日要求 TPPで“拍車”

牛肉・郵政・保険…


 環太平洋連携協定(TPP)交渉への日本の参加とあいまって、米国政府が従来の対日要求を強めています。牛肉輸入の規制撤廃、保険市場への参入の拡大や医療産業の規制緩和など、米国大企業の要求にTPPで弾みがついています。(山田俊英)

 1月、TPP交渉に関する情報収集のためワシントンで開かれた日米貿易フォーラムで米側は、日本が牛海綿状脳症(BSE)対策のために行っている輸入牛の月齢制限を撤廃するよう求めました。郵政民営化見直し法案にも、米国の金融・保険業界の利益を図る立場から懸念を表明しました。

安全より速さ 残留農薬でも

 米国など9カ国が行っているTPP参加交渉で、輸入農産物の検疫は24ある作業部会の一つ。外務省によると、検疫の部会は「手続きの迅速化」を議論しており、安全より速さが強調されています。

 米国はこれまで、冷凍食品や食品添加物、収穫後の防かび剤、残留農薬に関する日本の基準が厳しすぎると非難してきました。米通商代表部の「2010年衛生・植物検疫措置に関する報告書」は、「日本は米国の冷凍フライドポテトを大腸菌があるためにときどき拒絶している」とさえ述べています。

 報告書は、日本の法律が食品添加物について製品に表示を義務づけていることに対しても、「費用がかかり、不必要な要求」と不満を表明。日米規制改革イニシアチブで廃止を目指すと宣言しています。

 規制改革イニシアチブは01年、当時の小泉純一郎首相とブッシュ大統領が立ち上げた「成長のための日米パートナーシップ」のもとに設けられた常設対話です。この枠組みのもとで、両国政府が互いの経済政策に注文をつける「年次改革要望書」を毎年交わし、実行状況を点検しあう関係が2009年まで続きました。

 要望を交換するといっても、圧倒的に力を行使したのは米国でした。郵政民営化、大規模小売店の出店規制の緩和、「混合診療」の解禁は米側の要望書にもとづいて日本政府が実施したことです。

定期的な注文 装い変え再開

 「要望書」方式は09年、日米双方で政権が交代したため中断しましたが、米国が定期的に注文をつける関係はTPPを機に、装い新たに再開しつつあります。昨年11月、横浜で会談した菅直人首相とオバマ大統領はTPP問題を話し合うとともに、エネルギー、イノベーション(技術革新)などの政策対話を立ち上げることに合意しました。中でも「日米経済調和対話」は、「貿易円滑化」や「地域の課題における連携推進」がテーマ。規制改革イニシアチブのようにさまざまな国内制度を議題にすることができます。

 TPP交渉にも、検疫のほか、電気通信、サービス貿易、金融、貿易円滑化、競争政策などの作業部会が設けられ、米国の対日要求を取り上げる舞台が整っています。

 TPP参加に向けた「国内改革」の一環として菅内閣の行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会」が1月26日に発表した案には、医療や金融での規制緩和、食品添加物の承認手続きの迅速化など米国の要求が反映されています。


大腸菌ポテトは拒絶するな 添加物表示は不必要

 米通商代表部「2010年衛生・植物検疫措置に関する報告書」に記された日本に関する報告から

 〈牛肉〉 

 「米国は、日本が市場を完全に再開しようとしないことを非常に懸念している」

 〈バレイショ〉 

 「日本における冷凍食品に関する細菌含有の規格は、いくつかの事例においては、特に加熱が必要な食品について非現実的であまりに規制が強い。例えば日本は、完成品に分類した米国の冷凍フライドポテトの積み荷を、大腸菌があるためにときどき拒絶している。

 米国は、検出された大腸菌は最小限であり、業界基準の限度内であると強く主張している」

 〈食品添加物〉 

 「日本の食品添加物の規制は、いくつもの米国食品、特に加工食品の輸入を制限している」

 〈収穫後の防かび剤〉 

 「日本の食品表示法は、収穫後の防かび剤を含むすべての食品添加物の小売り時点における告知を要求している…このような要求は、日本の消費者が米国製品を購入することを不必要に妨げている。費用がかかり不必要なこれらの要求事項を廃止するため、米国は日本とともに規制改革イニシアチブで取り組んでいく」

 〈農薬の最大残留基準〉 

 「米国の基準値が日本より緩やかな場合の実施慣行について引き続き重大な懸念が存在する」

 〈コメ〉 

 「日本のコメ輸入制度は過剰な検査を義務づけて米国産米の経費を押し上げ、日本市場における米国産米の競争力を制約している」





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