2011年4月29日(金)「しんぶん赤旗」
原発事故賠償 精神的苦痛も対象
1次指針決定 風評被害は今後検討
東京電力福島原子力発電所事故の賠償範囲を検討する原子力損害賠償紛争審査会は28日、文部科学省で3回目の会合を開き、損害賠償の範囲に関する1次指針を決定しました。1次指針では、政府指示によって発生した損害について、基本的な考え方を明らかにしました。
1次指針は、東電に対しては、「多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えたうえで、迅速、公平かつ適正な救済」を求めています。
原発から半径30キロ圏内や「計画的避難区域」「緊急時避難準備区域」の住民らに対して、交通費や宿泊費など「避難費用」や、生命・身体的損害、精神的苦痛、営業や就労が不能になったことによる損害などを認めました。ただ、精神的苦痛の判定基準や算定の要素については「できるだけ早急に検討する」としています。
出荷制限指示による損害については、指示したものが政府であれ、地方自治体であれ、減収分や廃棄費用などの追加費用を損害として認めました。流通業者についても販売できなかった損害を認めました。ただ、生産者団体による出荷・操業自粛については、福島県漁協が県と協議して行ったもの以外については、「相当因果関係のある損害といえるかは難しい問題」だとしました。
航行危険区域設定にかかわる損害では、操業断念に伴う減収に加え、同区域を迂回(うかい)して航行したことによる費用の増加分や収入の減収分を認めました。
これまでの会合で議論になってきた風評被害については、「どこまで賠償の対象となる損害に該当するかについては、今後検討する」と、次回指針以降の検討課題とされました。
解説
原発事故賠償「線引き」せず全面賠償を
原発事故で発生した甚大な被害は、農産物、水産物、工業、商業、観光業など広範囲な分野に及び、避難を余儀なくされている被災者の生活状況は日々深刻化しています。東京電力は、被災者への賠償を一刻も早く実施することが必要です。
そのさい重要なことは、あらゆる被害に対して全面的な賠償を行うことです。原発事故が発生しなかったらできた生活との差額をすべて賠償の対象にすべきです。被災者の生活を支えるために賠償の算定基準などが決まるのを待つのではなく、必要な仮払いを実行すべきです。
政府による避難指示等の「線引き」で発生した被害に対象を限定しないことが重要です。しかし第1次指針では、避難指示等以外の被害については対象にしませんでした。その一方で、同指針は「政府の指示等によるもの以外が損害賠償の対象から除外されるものではなく」と指摘し、風評被害など「今後検討する」としています。原子力損害賠償紛争審査会は、より全面的な指針策定を早急に行うことが必要です。 (清水渡)
原子力損害賠償紛争審査会 原発事故が起きた場合、どの被害を賠償の対象にするか、指針を決める会議。原子力損害賠償法に基づいて文部科学省に設けられます。同法によれば、(1)一般的な事故(2)地震、津波などによる事故(3)社会的動乱や異常に巨大な天災―の3通りで賠償の方法が異なります。政府は今回、(2)に当たるとして「東京電力が一義的責任を負う」ことを前提に賠償を支払うとしています。政府が1200億円を払い、それを超える賠償は東電が払います。東電が払いきれない分はさらに政府が負担することができます。