2011年5月16日(月)「しんぶん赤旗」

主張

軽度者への給付削減

“負担あり介護なし”の加速だ


 菅直人内閣が提出した介護保険法改定案の審議が始まりました。東日本大震災の直前閣議決定されていたもので、「要支援」者向けにおこなわれている介護保険の訪問・通所サービスを、市町村の判断で「介護予防・日常生活支援総合事業」に移し、配食や見守りなどと組み合わせて保険給付の対象外にできるとしたものです。介護保険からの給付費を削減し、国の負担を減らすのが狙いです。

安上がりの事業の危険

 40歳以上の国民が保険料を負担している介護保険はこれまでも公的な介護体制が不十分で、“負担あって介護なし”と批判されてきました。介護保険料を払わせ、「要支援」と認定しながら、「支援事業」に移し、給付対象からはずすのは、介護が必要な人たちの権利を奪うことにもなる、介護保険のいっそうの改悪です。

 市町村が実施する「総合事業」にも介護保険料や国・自治体の交付金が支出されますが、その事業費には上限が設けられています。基本は介護保険の認定で「非該当」とされた介護保険給付対象外の人たち向けの事業です。

 介護保険での訪問・通所サービスなどの事業には全国一律の基準がありますが、「総合事業」にはそうした基準がありません。市町村が事業費の上限を超えないよう安上がりな方法を選べば、劣悪なサービスしか受けられなくなります。逆に利用料は、介護保険が定める「1割負担」より高くなることもありえます。

 介護保険は「介護の社会化」をうたい文句に2000年に創設され11年になりました。国や自治体が支出する公費と、国民が負担する保険料や利用料を財源に、公的な介護制度確立が目的とされました。しかしもともとの介護施設やサービスの体制が不足していたうえ、自公政権が社会保障費の削減路線を続け、国庫負担を減らしてきたため、介護サービスの削減や保険料・利用料の負担拡大が続いてきました。

 高齢化にともない公的な介護を求める人は増えています。たとえば特養ホームに入りたくても入れない「待機者」は、介護保険が導入されてから10年間で4倍以上に増え09年には42万人にものぼりました。家族の介護のため、仕事をやめなければならなかった人が13万人もいるありさまです。

 高齢になれば誰でも病気にかかりやすくなり、日常生活が不自由になります。状態が軽い人への対策をつくすことは重度化を防ぎ、認知症や寝たきりなどを予防することにもなります。症状が軽いからというだけで保険給付の対象からはずし、安上がりの事業に委ねる今回の改定は、介護を予防する上でもあべこべの対策です。

公費負担の大幅拡大を

 高齢者は「社会の宝」です。高齢者が安心して暮らせる体制を整えるのは国と社会の責任です。東日本大震災の被災地でも、介護が必要な人に公的な介護を保障することが重要になっています。

 特養ホームなど公的な介護体制の充実にも、加入者や利用者の負担を増やさず安心できる介護保険の制度を実現するにも、不可欠なのは国庫負担の拡大です。必要な国庫負担を増やさず、給付の引き下げか負担の引き上げかと迫るのでは、民主党政権も自公政権と同じということになるだけです。





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