2011年5月23日(月)「しんぶん赤旗」
「あたご」無罪判決 「異議あり」
自衛艦の「そこのけ」体質を追認
海上自衛隊のイージス艦「あたご」が、千葉県房総半島沖で漁船「清徳丸」に衝突、沈没させ漁師親子が死亡した事件で、業務上過失致死の罪に問われた当直士官(当時)2人が無罪となった横浜地裁判決(11日)。検察は控訴期限の25日までに控訴する見通しです。日増しに高まる「無罪判決に異議あり」の声を追いました。 (山本眞直)
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同裁判で検察は、「あたご」に「清徳丸」を回避する義務があり、その動作を取らず見張りなどの不十分が衝突の原因として、当時の当直士官2人を業務上過失致死の罪にあたるとして禁錮2年を求刑。被告側は、原因は清徳丸の衝突直前の右転にある、として無罪を主張しました。
裁判所は、検察と被告の双方が提出した清徳丸の航跡図を「信用できない」「看過できない問題がある」として退けました。そのうえで裁判所が新たに認定した航跡図をもとに「衝突は、清徳丸の右転が原因。回避義務は清徳丸にあった。避航義務のないあたごには過失を負う責任がなくなる」としました。
衝突をめぐっては、防衛省の事故調査委員会が「あたご」に漁船を回避する義務がありながら、見張りや連絡体制の不十分さを認め、関係者を処分。横浜地方海難審判所も同様な判断に立ち、海上自衛隊に改善を勧告し、海上保安庁は2人の当直士官の刑事責任を告発しました。
問題点次つぎ
公判を傍聴した海難事故に詳しい田川俊一弁護士は、判決の問題点をこう指摘します。
―衝突の原因を清徳丸の「右転」にあるとしているが、同丸はえさ場の三宅島に向けた進路で航行しており、わざわざ右転する合理的な理由がない。右転理由を「不明」としているが、これは重大事件の「動機」にあたり、その説明抜きの判決は説得力に欠ける。
―衝突の原因とする「右転」は、海難審判所の裁決通り、いわばパニック状況下での動作と見るべきだ。ラスト・ミニッツ・アクションとよばれる衝突がまじかに接近したときに右かじをきり、エンジンを停止させるなどの本能的な動作として海難事件では問題にならないものだ。
―裁判所が航跡図を独自に認定することはありうる。しかし判決が認定したものは、清徳丸の「右転」が衝突原因という結論に合わせた、恣意(しい)的な作図としか見えない。
動作遅れ歴然
清徳丸などの漁船群を右手にみた「あたご」が、漁船を回避すべき義務をもつとする海上衝突予防法(15条)は、世界共通のもの。「あたご」は、「(漁船から)十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に(避航のための)動作をとらなければならない」(同16条)のです。
被告人らは清徳丸を衝突3分前に視認しながら、両舷停止などの動作をしたのはわずか30秒前(いずれも判決文)。「見張り不十分」「動作の遅れ」は歴然でした。
判決は相手船を右方向に見る船が相手の進路を避けるという「横切り航法の鉄則」、海上衝突予防法15条を骨抜きにしたもので、自衛艦など大型船優先を司法が容認するという極めて重大な判断です。
法曹関係者やジャーナリストらでつくる「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」(平権懇)は公正判決を求めてシンポジウムを開くなど、あたご事件に強い関心を示してきました。それだけに自衛官の無罪判決に「独自の航跡を推定してあたごの回避義務を否定し、無罪としたのはいかにも乱暴。自衛艦の『そこのけ』体質を追認した社会的影響は強い」と批判しています。