2011年6月5日(日)「しんぶん赤旗」
主張
TPP
大企業優先し経済をゆがめる
菅直人首相は5月の日米首脳会談で、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加について「震災で遅れているが、できるだけ早期に判断したい」と表明し、オバマ米大統領の「評価」を得ました。
東日本大震災で被災地の基幹産業の農林水産業が大被害を受けたなか、これら産業に壊滅的打撃を与えるTPPへの参加は先送りを余儀なくされてきました。日米同盟優先で早期推進に転換し、復興の取り組みさえくじく首相の姿勢は厳しく批判されるべきです。
国民の経済主権奪う
TPPは、モノの貿易で「例外なき関税撤廃」を進めるだけでなく、食の安全・安心を掘り崩し、医療、労働、金融、中小企業、エネルギーなど国民生活にかかわる広範な分野で、経済のあり方を輸出国の大企業の利益に沿って作り変えることで、国民の経済主権を奪うものです。
米豪など9カ国によるTPP交渉会合はこれまでに6回を終え、米国が期限とみなす11月のハワイ協議まで残り3回です。4月のシンガポール会合について、米通商代表部(USTR)は「協定案文化の目標に向かって実質的な前進があった」としています。
しかし、その内容は伏せられたままです。交渉に参加する各国の国民生活を将来にわたって左右するにもかかわらず、政府が一括調印するまで国民はその中身を点検することができず、きわめて非民主的なやり方です。
交渉の主導権を握る米国はシンガポール会合で、各国に規制緩和を迫る案文を提示したといいます。USTRは「参加国が規制体系をより均一に運営しようとするもの」と公平を装いながら、「外国市場に参入しようとする米企業にとってますます主要な障害になってきている『国内』問題を扱う」と本音を明らかにしています。各国がそれぞれ設けているルールを「非関税障壁」として敵視し、まさに米企業に有利な姿に変えようとするものです。
一例が、外国企業が投資先国の政策を「差別的」として、その国を相手取って国際機関に訴えることができるとする条項です。大企業こそが主人公だというこの条項を、米国は北米自由貿易協定(NAFTA)に入れ込みました。TPPでも、米大企業が参加する「TPPのための米国企業連合」が投資保護を掲げて求めています。一方、オーストラリア政府はこの条項を「社会、環境、経済問題について法を制定する政府の能力を縛る」と拒否しています。
見過ごせないのは、国民生活破壊のこうした条項を日本政府も追求していることで、日本がインドと2月に結んだ包括的経済連携協定にも盛り込まれています。
交渉に踏み出すな
日本経団連の米倉弘昌会長は5月、TPP交渉のスケジュールは大震災といった各国の個別事情にはかかわらないとし、「早期に交渉参加を決定すべきである」と政府の尻をたたきました。それこそ、TPPが大企業の利益に沿うからにほかなりません。
TPP参加は、小泉自公政権が強行して批判を浴びた弱肉強食の「構造改革」を、今度は米国本位で推進し、日本経済のゆがみをさらにひどくするものです。TPP交渉に足を踏み出すべきではありません。
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