2011年6月9日(木)「しんぶん赤旗」

原発事故 IAEAへの政府報告書

津波の想定、過酷事故の対応策…

安全対策の不備認める


 原子力安全対策の根本的な見直しが不可避である―。政府の原子力災害対策本部が7日に国際原子力機関(IAEA)に提出した福島原発事故報告書は、地震・津波の想定をはじめ、過酷事故(シビアアクシデント)への対応策、災害時の広域避難や放射線防護のあり方など、これまでの安全対策の不備を認めざるを得ませんでした。


 報告書は「事故の教訓」として28項目を掲げました(別項)。

 津波については、発生頻度や高さの想定が不十分だったこと、手順書でも津波の浸入を想定していなかったことを認め、対策を講じるとしています。

 また事故の大きな要因として、必要な電源が確保できなかったことをあげて、多様な非常用電源の整備の必要性を明記しました。原子炉の熱を最終的に逃がすための海水ポンプの機能喪失など、冷却機能が失われたことが事故の重大化につながったとしました。

 地震による被害については、安全上重要な設備は現在まで大きな損壊は確認されていないとしつつ、さらなる調査が必要だとしています。実際、地震直後に真水タンクの漏えい、3号機では緊急炉心冷却装置(ECCS)の配管が地震で損傷した疑いがあります。

 過酷事故に至った場合のアクシデントマネジメント対策も、不十分だったと指摘。1992年にアクシデントマネジメントの指針が策定されて以来見直されず、電力会社の自主的取り組みとされて法規制の対象としてこなかったとしています。

 原子炉建屋の水素爆発の防止策がとられておらず「有効な手立てをとることができないまま、連続した爆発が発生する事態となり、事故をより重大なものにした」と指摘。格納容器の破損を防ぐために蒸気を逃がす「ベントシステム」の操作性に問題があったとしたほか、中央制御室で放射線量が高くなって運転員が一時立ち入れなくなったこと、作業員の被ばく管理の不備も明記しました。

 原子力安全規制行政については、原子力安全・保安院や原子力安全委員会など行政組織が分かれており、災害防止の「第一義的責任を有する者の所在が不明確」で、大規模な原子力事故に際して「力を結集して俊敏に対応する上では問題があった」としました。このため、保安院を経済産業省から独立させるなどの検討を行うとしています。

 事故の進展や放射性物質の影響など情報公開のあり方についても問題点をあげました。とくに事故直後、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で仮計算した予測がありながら公表しなかったことをはじめ、放射線や放射性物質の健康への影響についての説明の不十分さは国民の不信を呼んでいます。また、放射能汚染水の海水への放出を事前通知しなかったことは国際的に批判されました。

 一方、すべての教訓の総括として「安全文化」(安全を最優先にする組織と個人の気質や態度)の徹底が必要だと結論づけました。


報告書が掲げた28項目

 ■過酷事故防止策の強化

 (1)地震・津波への対策の強化

 (2)電源の確保

 (3)原子炉と格納容器の確実な冷却機能の確保

 (4)使用済み核燃料プールの確実な冷却機能の確保

 (5)アクシデントマネジメント対策の徹底

 (6)複数炉立地における課題への対応

 (7)原発施設の配置など基本設計上の考慮

 (8)重要機器施設の水密性の確保

 ■過酷事故への対応策の強化

 (9)水素爆発防止策の強化

 (10)格納容器ベントシステムの強化

 (11)事故対応環境の強化

 (12)事故時の放射線被ばく管理体制の強化

 (13)過酷事故対応の訓練の強化

 (14)原子炉や格納容器などの計器類の強化

 (15)緊急対応用資機材の集中管理と救助部隊の整備

 ■原子力災害への対応の強化

 (16)大規模な自然災害と原子力事故との複合事態への対応

 (17)環境モニタリングの強化

 (18)中央と現地の関係機関などの役割の明確化など

 (19)事故に関するコミュニケーションの強化

 (20)各国からの支援などへの対応や国際社会への情報提供の強化

 (21)放射性物質放出の影響の的確な把握・予測

 (22)原子力災害時の広域避難や放射線防護基準の明確化

 ■安全確保の基盤の強化

 (23)安全規制行政体制の強化

 (24)法体系や基準・指針類の整備・強化

 (25)原子力安全や原子力防災に関わる人材確保

 (26)安全系の独立性と多様性の確保

 (27)リスク管理における確率論的安全評価手法(PSA)の効果的利用

 ■安全文化の徹底

 (28)安全文化の徹底


解説

“安全神話”の反省不十分

 今回の報告書では、原子力行政の推進機関である経済産業省からの保安院の独立を盛り込み、国際公約しました。この点は、国際条約にも反する日本の規制行政のあり方を日本共産党が早くから告発し、原発事故の危険を最小限にするために、推進機関から独立した規制機関を緊急に確立するよう要求してきたことです。

 津波対策の不備の問題も、早くから住民運動や日本共産党が指摘し、対策を求めてきたことです。しかし、政府は「そういうことが起こらないように安全設計をしている」(吉井英勝衆院議員への寺坂信昭保安院長の国会答弁)などとして、対策を怠ってきました。

 このほか過酷事故への備えをしてこなかったことが事故対応の遅れにつながったことが浮き彫りになり、早急な対策が求められます。

 一方、情報公表について、報告書は「正確な事実を中心に公表しており、リスクの見通しまでは十分には示してこなかったため、かえって今後の見通しに不安をもたれる面もあった」と弁明しています。しかし、炉心溶融を認めるのが遅かったなど、この間の政府や東電の態度をみるかぎり、「正確な事実」が把握できていないことを理由に事故の進展を過小評価し、最悪の事態への想定がなおざりになってきた感がぬぐえません。

 報告書が述べたように「安全文化」が重要なのは当然ですが、電力会社が事故隠しやデータ改ざんを繰り返してきた過去をみるなら、一般的な努力不足として解消できる問題ではありません。

 “安全神話”にしがみつき、危険性の警告を無視して原発を推進してきた、自民党はじめ歴代政府と電力会社の責任の総括なしに、安全文化の徹底はありえません。 (中村秀生)





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