2011年7月5日(火)「しんぶん赤旗」

主張

「水産特区」構想

漁業再建に障害押しつけるな


 東日本大震災から4カ月が近づき、被災者の生活立て直しにとって生業(なりわい)の再建が重要になっています。被災地ではカツオの水揚げなど明るい知らせもあるものの、「二重ローン」問題への対処をはじめ、政府がやるべき復旧の遅れには憤りを覚えるほどです。

 そのなかで、「復興」を名目にしながら、漁業の再建に新たな障害を持ち込む動きがあることを厳しく批判しなければなりません。漁業者こぞっての反対をよそに、政府と宮城県が強行しようとしている「水産業復興特区」構想がその典型です。

混乱もたらす「改革」

 「水産特区」構想は、政府の復興構想会議の提言に盛り込まれ、水産庁が示した「水産復興マスタープラン」でも基本方針に位置づけられました。同構想を推進する村井嘉浩・宮城県知事は提言を「満足」だと評価しました。

 養殖をはじめとする沿岸漁業に、民間企業を自由に参入させるのが構想の趣旨です。地元の漁業者と漁業協同組合に法律で優先的に認めている漁業権を、「特区」方式での規制緩和によって企業にも“同等”に与え、自由な企業活動を認めようというのです。

 沿岸漁業は狭い海域で多様な漁業が営まれているため、資源の管理や操業の秩序を維持するには一元的な管理が不可欠です。漁業者が参加し、自らは操業しない漁協に管理の役割が優先的に与えられているのはそのためです。

 現在でも民間企業は漁協の組合員になるなどの方法で参入することができます。しかし、「特区」構想は民間資本の参入というだけでなく、漁場管理を複数化し、競争させようというものです。漁業を投資対象としかみない企業に自由な活動を認めるなら、もうからなければ容易に撤退するなど、資源管理上も地域社会にとっても混乱をもたらします。

 「水産特区」構想は利益優先の企業に自由な活動を保障し、既存のルールに代えて弱肉強食を原理にすえる財界本位の「構造改革」の一環です。経済同友会が示した復興計画への提言も、「復興にあたっては大規模化や法人化を通じて、強い産業として再生する視点が重要である」として、これを支持しています。構想を支持する学者らからは、漁業権を「資産」として「売買」できるようにすべきだとの主張まで現れています。

 見過ごせないのは、こうした「構造改革」が、大震災による未曽有の被害を奇貨として、上からの一方的押しつけで実施されようとしていることです。「水産特区」導入は、復興に民間資本を呼び込むためとされています。しかし、そう主張する村井知事自身が、この構想は規制を緩やかにする「構造改革」の「実験」だと位置づけ、「うまくいけば全国に広げていく」とまで述べています。

協同への支援をこそ

 漁業者との対立を引き起こしてまで「実験」にこだわる姿勢は、被災地の漁業の再建を妨げるものです。それは被災住民の要求を受け止め、支援すべき行政のあり方からかけ離れています。

 東北の主要産業である漁業を再建するには漁業者の協同がなにより重要であり、漁業権はその大事な条件です。そうした漁業者の協同を十分に支援することこそ、政府が果たすべき責任です。





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