2011年7月17日(日)「しんぶん赤旗」
主張
牛肉セシウム汚染
「安全」と「安心」へ対策強化を
福島県内で生産された肉牛から、放射性物質のセシウムで汚染された肉が相次いで見つかっています。3月の東京電力福島原発の事故で飛散した、放射性物質を浴びた稲わらを与えられたことが原因とみられます。稲わら、牧草などのセシウム汚染は、各地に広がっています。
牛肉から検出されたセシウムは長期間食べ続けなければ人体に影響はない程度とされますが、肉牛の内部被ばくによるとみられる汚染が、相次いで見つかったことはきわめて重大です。食品と畜産業の「安全」「安心」のために、徹底した対策が不可欠です。
稲わらから内部被ばく
セシウムで汚染された牛肉は、最初は今月初めに福島県南相馬市から東京都の芝浦と場に出荷された肉牛から見つかりました。今週になって、福島原発から60キロ離れた福島県浅川町から出荷された肉牛でも汚染が明らかになりました。処理された牛肉は東北や関東、西日本など広い範囲に流通し、一部は食用として消費されてしまったことも明らかになりました。
原因はいずれも、粗飼料や敷きわらとして与えられた稲わらの放射性物質による汚染です。稲わらを食べた牛が体内で被ばくし、その肉が流通しました。原発に近い警戒区域から牛は出荷されず、計画的避難区域などから出荷される牛は放射線量を計測していますが、原発から遠い浅川町などは対象外です。予測を超えた汚染の広がりは深刻です。食品の安全を守るために、外部被ばくはもちろん内部被ばくについても、より徹底した調査が不可欠です。
東電福島原発の事故後、稲わらや牧草などが粗飼料として不可欠な牛には、事故前に刈り取り、屋内に保管したものとするよう指導されていました。しかし、代替の飼料の確保は生産者まかせで、農家への説明も十分とはいえませんでした。
緊急時避難準備区域にある南相馬市から出荷された肉牛は、屋内で保管されていた稲わらだけでは足りず、屋外にあった稲わらも与えられていました。白河市などから稲わらを仕入れた浅川町の農家は、稲わらに屋内で保管するなどの規制があったこと自体知らなかったといいます。
東電福島原発の事故によって放射性物質がどの範囲まで飛散するかの見通しさえ知らせず、必要な粗飼料の手配や稲わらの管理などの対策を徹底しなかった政府の責任は明らかです。
出荷した農家の責任を問題にしてすむ問題では絶対にありません。食の安全とともに農家の経営を守るのは政府の責任です。検査体制の確立や飼料の保障、東電に出荷できない農家を含めた全面的な賠償をおこなわせるなど、政府はその責任を果たすべきです。
原発からの撤退を急いで
東電福島原発事故にともなう食品汚染が、当初の野菜や水、茶葉などのヨウ素による汚染から、より半減期の長いセシウムによる汚染、肉牛の内部被ばくへと表れ方が広がっています。汚染対象の拡大や、小さな魚を食べる大型魚への集積などが懸念されます。
大量の死の灰をまき散らす原発事故の深刻さはいよいよ明らかです。事故の収束に全力をあげるとともに、原発からの速やかな撤退を求める世論と運動が急務です。