2011年8月7日(日)「しんぶん赤旗」
「究極的な核廃絶」主張
平和記念式典で菅首相
菅直人首相は6日、広島市で開かれた平和記念式典であいさつし、「究極的な核廃絶」実現を主張しました。核兵器禁止条約に向けた交渉開始が課題になっているときに、これに逆行する「究極廃絶」にしがみつく姿勢を示すものです。
菅首相は、昨年、日本が国連総会に提出した「核兵器の全面的廃絶に向けた共同行動」決議案が米国を含む過去最多90カ国の共同提案で圧倒的多数で採択されたことなどをあげ、「核軍縮・不拡散分野における国際的な議論を主導しています」と語りました。
その上で菅首相は「66年前、ここ広島を襲った核兵器の惨禍を、人類は決して忘れてはならず、二度と繰り返してはなりません」と述べながら、「日本国を代表し、唯一の戦争被爆国として、究極的な核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、日本国憲法を順守し、非核三原則を堅持することを誓います」と言明しました。
また、東電福島第1原発事故に触れ、「事故の早期収束と健康被害の防止に向け、あらゆる方策を講じてきた」「事態は着実に安定してきています」などと、根拠のない楽観論をふりまきました。
原子力の「『安全神話』を深く反省」するとして、エネルギー政策の「白紙からの見直し」を改めて唱えながら、「(原発の)安全性確保のための抜本対策を講じる」「原発への依存度を引き下げ『原発に依存しない社会』をめざしていく」と言うだけで、期限を切って原発から撤退する考えのないことを示しました。
なぜ再び「究極」なのか
この1年で新たに亡くなった被爆者は5785人、平均年齢は77歳。生きているうちに核兵器のない世界を実現したいとの被爆者の思いは切実です。6日、菅直人首相が広島・平和記念式典で唱えた「究極的な核廃絶の実現」は核兵器廃絶を永久に先送りするものであり、被爆者の願いを否定するものです。
昨年5月のNPT(核不拡散条約)再検討会議では、核保有国を含む加盟国が核兵器廃絶にむけ行動することで合意しました。今年の平和式典で、湯ア英彦広島県知事は、「現行の『核抑止論』にかわる新たな国際的安全保障体制の構築が必要」と主張。平和宣言を読み上げた松井一実広島市長は、世界平和市長会議が唱える「2020年までの核兵器廃絶」にむけ力を注ぐことを約束しました。核抑止力論から脱却し、期限を切った核廃絶の道筋を示すことは、日本と世界の共通した世論です。
首相発言に対し、長崎で自身も被爆し式典に参加した日本被団協の田中熙巳事務局長は「近年、使われなかった『究極的』との表現をなぜ今、再び使うようになったのか。理解できない」と語ったように、被爆者らを落胆させ、核廃絶に向けた流れに冷や水を浴びせる態度です。
首相のあいさつ後、国連のドゥアルテ軍縮上級代表は「検証された核軍縮こそが、国際平和と安全保障に大きく貢献するものであり、今すぐ遂行されるべきものです」「真に平和な世界になってから着手されるべきものだという間違った認識によって後回しにすべきではありません」との潘基文国連事務総長のメッセージを代読。菅首相の姿勢と対照をなすものでした。菅発言は、「唯一の被爆国の首相」としての資格が問われます。 (遠藤誠二)
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