2003年1月20日(月)「しんぶん赤旗」
政府は二十日から、有事法案の施行後二年以内に整備するとしている「国民保護法制」の「輪郭」について、自治体と民間機関への説明・意見聴取を始めます。
「輪郭」は、「国民保護法制」について自治体などから「自治権の侵害につながる」「国と地方、民間との権限の関係が理解できない」などの批判・疑問が相次いでいるため、政府が昨年十月にまとめたもの。今回の説明は、自治体、民間機関の「理解」を取りつけ、有事法案成立に向けたはずみにするのが狙いです。
具体的には、二十日に都道府県の担当者を総務省に集め、同法制を担当する内閣官房が説明。その模様を衛星通信で各自治体に中継します。さらに、二十九日に全国市長会、三十日に全国町村会にも説明する予定です。
民間機関に対しては今月下旬から、NHK・民放団体、医療関係者団体、電気事業連合会・日本ガス協会、輸送関係団体、電気通信事業者協会などへの説明を進めます。
政府は「国民保護法制」について、「避難に関する措置」「救援に関する措置」「被害を最少にする措置」の三つに大別し、あくまでも「国民保護」が目的との印象を与えようとしています。
しかし、福田康夫官房長官は昨年六月十二日の全国知事会議で、国民の保護について同法制ができるまでは「現行法でも対応できる」と述べています(橋本大二郎高知県知事が昨年六月二十五日のメールマガジンで紹介)。それなのに、なぜ、わざわざ新たな法制が必要なのか。
それは、「有事」に際し、国をあげての戦争遂行体制をつくりあげるため、自治体や民間機関、国民を統制・動員する狙いがあるからです。このことは「国民保護法制」の「輪郭」からも浮かび上がってきます。
「輪郭」によると、同法制は「国による主導的な対処」を定め、自治体や民間機関は「国の方針に基づく対処」が求められ、動員される仕組みになっています。
内閣官房関係者は「『輪郭』は(災害から国民を保護するために制定された)災害対策基本法を参考にしてつくった。しかし、決定的に異なるのは災対法で責任を負うのは自治体だが、武力攻撃事態は戦争であり、国が第一義的に責任を負う」と強調します。
米軍や自衛隊の行動を最優先で保障し、国の指示のもとに自治体や民間機関を協力させる態勢づくりを狙っているのです。
「輪郭」は、都道府県知事が物資の保管命令や収用、土地・家屋の使用、医療関係者への業務従事(医療の提供)の指示を行うことなどを列挙しています。知事が協力を拒否すれば、首相が直接、強制執行します。
保管命令に違反しての救援物資の転売、警戒区域への立ち入りについて罰則を「検討」することも明記しています。
それだけではありません。国民の所有する物資の収用や土地の使用などは「法律である以上、行政は強制的に行う。所有者がこれを物理的に妨害した場合は、公務執行妨害として罰せられることになる」(内閣官房関係者)のです。
自治体からはすでに、「国民は否応なく財産権の侵害のみならず、軍事協力に駆り出される」「逆に市民の生命・財産を危険にさらす役割を地方自治体自身が果たすことになる」(上原公子・東京都国立市長)との批判が上がっています。
政府の狙いとは裏腹に、「国民保護法制」の危険な本質が明らかにされれば、自治体や国民の批判・疑問が拡大するのは避けられません。