日本共産党

2003年1月27日(月)「しんぶん赤旗」

検証

超スピード承認 イレッサ 死者124人

坂口厚労相の責任


 肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)の副作用による死亡者は、発売後七カ月で百二十四人にのぼりました。国の認可した薬でなぜこれほどの被害を出したのか。安全な医薬品を国民に供給する責務をおわされている厚生労働省の対応をみました。

危険示すデータ黙殺

 イレッサは一錠(二百五十ミリグラム)七千二百十六円十銭。内服薬の最高ランクです。昨年八月三十日に保険が適用される薬価基準収載が行われ、その後三カ月で約七十三億円もの売り上げを記録しています。

 アストラゼネカ社が厚生労働省にイレッサの承認申請をしたのが昨年一月二十五日。通常、申請から承認まで要する期間は一年かかるところ、わずか五カ月という超スピード審査で同年七月五日に承認されました。どこにも承認する国がないなか、日本だけが早々と承認し、今日の深刻な事態をうみだしたのです。

 厚生労働省は、承認前に海外からの副作用報告で五十五人の死者がでていることを把握していました。これほど多くの死者がでているのに、生データを入手して審査するということをしていません。同省は「国内での審査で十分で、そこまで必要はないと判断した」(審査管理課)といいます。

 ところが、国内での臨床試験の症例はわずか三十人から百人程度という少数。一方、アストラゼネカ社は昨年八月二十日、二千百三十人を対象に行った臨床試験結果を発表していました。この臨床試験で、見た目にはまったく本物とかわらない偽薬による患者群と本物を投薬した患者群を比較した結果、平均生存期間に有意差はなかったと報告しています。つまり、延命効果がなかったということです。

 厚生労働省は、このデータを黙殺。発表翌日の八月二十一日、保険からの支払いをおこなうための薬価基準収載を強行しました。

 そして、有意差はないというメーカーの報告も、五十五人の死者がでていることも公表しないまま発売し、百二十四人もの死者を出す未曽有の薬害事件を引き起こしました。

「安全性確保」投げ捨て

 医薬品の安全性確保は厚生労働大臣の責務です。

 薬害ヤコブ病裁判における東京地裁の「和解に関する所見」(二〇〇一年十一月十四日)は、「(厚生大臣が)医薬品等の性能上の安全性を確保し、副作用や不良医薬品等による国民の生命・健康に対する侵害を防止すべき職責を負っている」と指摘しています。

 公明党の坂口力厚労相は、この指摘を認め、二〇〇二年三月二十五日、被害者側と和解のための確認書を交わしました。

 確認書では、薬害をくりかえしてきたことを「深く反省」し、薬害による「悲惨な被害を再び繰り返さないよう、最善、最大の努力を重ねることを固く確約」しました。

 この「確約」は生かされたのか。

 昨年十二月十二日、日本共産党の小池晃議員が参院厚生労働委員会で、イレッサ承認に至るずさんな審査、重要なデータさえ黙殺したことを厳しく追及。イレッサが短期間に記録的な売り上げをのばしていることも示して「何の歯止めもなく、承認されたらもう一気に広がっていく」と指摘し、深刻な薬害をひきおこした大臣の責任をただしました。

 これに坂口厚労相は反省の言葉もなく、「承認されました後、それがどういう広がりがあるかは、それは需要と供給の関係でございます」、「薬が売れるか売れないかはその効き具合によって決まってくる」と安全性確保への責任のかけらもみられない答弁。そのうえ、一面所報のように承認過程の「検証」を約束しながら、それさえほごにしたのです。

利益優先の規制緩和のなかで

 イレッサの承認にいたる異例の超スピードの審査を可能にしたのはなにか? 全国薬業労働者連絡会議の荒木茂仁事務局長は次のように指摘します。

 「世界的な許可基準の統一という名のもとに日米欧の製薬大企業、多国籍企業と厚生労働省が一体になって臨床試験などを簡素化しました。このことによって、安全性重視よりも、より早く利益を上げる方向で承認を早める方向へ薬務行政が行われている」

 臨床試験(治験)について厚生省(当時)は一九六七年に「医薬品の製造承認の基本通知」(局長通知)を出して、「五カ所以上の病院施設で百五十例以上」の国内でのデータを製薬企業に求めていました。実際に製造承認の段階となると数百例から千数百例以上になりました。

 それが一九八五年の中曽根・レーガン会談で外国での臨床試験データ受け入れと承認審査期間短縮について合意。しかし、人種差の要因を考慮しなければならない吸収・分布・代謝・排せつ試験、用量設定試験、二重盲検試験などは外国の臨床試験の受け入れを認めませんでした。

 一九九八年になって、欧米の製薬企業の圧力でこれまで第一相試験の一部にだけ認めていた外国臨床試験データを大幅に活用できるようにしました。

 日米欧の許可基準統一の会議に出席している日本製薬工業協会など業界団体は、こうした外圧を「開発および審査期間が欧米並に短縮される」として受け入れてきました。日米欧の巨大製薬企業・多国籍企業と行政が一体となって安全性を軽視した短期間にもうけを獲得できる審査のスピード化を作り上げました。

 厚生労働省は九九年四月に臨床試験について新しい基準の通知を出しました。その中で「何カ所何例以上」という症例数規定をなくし「製造指針等を参考に申請医薬品の有効性及び安全性を評価するに足りる症例数」とあいまいな規定に改悪しました。

 「イレッサの被害は国内での十分な管理下での臨床試験や十分な安全性評価ができない状況で承認した結果起こった」(荒木事務局長)のです。


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp