2003年1月29日(水)「しんぶん赤旗」
東京都千代田区の日比谷公園内で、支援費制度全国緊急行動委員会主催の「1・28支援費緊急報告集会」が二十八日開かれました。各地から障害者や介護者など約五百人が参加しました。これは前日、支援費制度について厚生労働省が示した見解について、報告するため開かれたものです。
支援費制度実施目前の一月上旬、突然、厚労省が、ホームヘルプサービスにたいして支出する国庫補助金への全国一律の上限設定を検討していることが明らかになりました。「ホームヘルパー制度は障害者が地域での自立生活をすすめる命綱。『上限』設定はこれに逆行し、運動で築いてきた制度を根本からくつがえすもの」と、さまざまな障害や立場の違いを乗り越えて日本障害者協議会(JD)、日本身体障害者団体連合会、全日本手をつなぐ育成会、障害者インターナショナル(DPI)日本会議が初めて手を取り合い、運動をすすめてきました。
二十七日の厚労省見解は「支援費制度」のホームヘルプサービスで「国庫補助基準は市町村に対する補助金の交付基準であり、個々人の支給量の上限を定めない」などの考え方を示しました。
集会では「筋ジストロフィーだった娘の介護で、ひざと股(こ)関節を痛め、松葉づえ生活に…。これから地域で(厚労省の)約束を守らせ、さらに障害者の社会参加をすすめる運動をすすめていくことが大切です」(JD河端静子代表)、「点字や録音物などによる視覚障害者への情報保障やまちづくりなど、課題はこれから。さらに支援費制度の改善や福祉施策充実をすすめていく」(全日本視覚障害者協議会阿部正文総務局次長)など、参加者代表が決意をのべました。日本共産党の小池晃、井上美代両参院議員が「基盤整備の遅れなど支援費制度の問題はたくさんある。みなさんのたたかいを力に国会でも奮闘していく」と激励のあいさつ。各団体が引き続き共同・行動をすすめていくとのアピールが決議されました。
東京都八王子市から参加した脳性まひの障害がある大神田彩さん(23)は「買い物やさまざまな催しに参加して人との出会いをひろげていくためにガイドヘルパーの助けは欠かせません。もっと利用しやすくしてほしい」と話していました。
四月から始まる障害者の「支援費制度」について、厚生労働省がホームヘルプサービス(居宅介護)の国庫補助基準に制限を設ける方針を打ち出した問題で、同省が従来の補助金を当面確保することなどを明言したことは、障害者の粘り強い抗議と要請行動が反映したものです。これを実効あるものにするため、財源の裏付けなど責任ある対応が求められます。
二十八日に開かれた、都道府県などの支援費制度担当課長を集めた会議の冒頭、同省の上田茂障害保健福祉部長は、制度開始を目前にひかえた一月になって突然こうした方針を打ち出したことについて「関係方面の意見を聞かないですすめたことは、配慮が足りなかった」と釈明しました。同時に「限られた財源を公平に配分するための基準」などと正当化し、自治体関係者の理解を求めました。
厚生労働省は、「いつでもどこでも、自分で選択してサービスを受けられるようにするのが支援費制度」だと宣伝しています。それならば、「限られた財源」の配分を口実に補助金制度を改悪するのではなく、新しい制度をスタートさせるのにふさわしく国の障害者予算を大幅に増額し、必要な財源をしっかりと確保するべきです。
ところが同省は、支援費制度の施行にともなっていっそう重要な役割を果たすことになる市町村の相談事業(障害者生活支援事業)への補助金を廃止し、一般財源化することも打ち出しました。一般財源化されれば他の事業に予算が回される危険が高まります。
また、施設に入所している知的障害者に対しては、必要経費から「日用品費」をはずし、月約二万円もの負担増を押しつけようとしています。(二〇〇三年度の負担増は経過措置で月約一万円)
厚労省の調査では、ホームヘルプサービスの指定事業所は五千三百カ所となる見込みで、介護保険(一万六千八百カ所)の三割程度にとどまるなど、在宅、施設ともにサービスが圧倒的に不足しているという問題もあります。
四月から支援費制度が始まり、行政が障害者福祉の提供に責任を持ついまの「措置制度」から、障害者本人が「自己責任」でサービスを選んで契約するしくみになります。障害者の本人負担(利用料)を除いた費用を、国と自治体が「支援費」として助成します。
政府は、遅れた基盤整備の拡充に全力でとりくみ、受け入れる側のサービスを緊急に整えるため、必要な予算を確保するべきです。そのためにも、引き続き国会内外での制度の問題点の解決などを求める運動が重要です。
日本共産党は、支援費制度の導入を盛り込んだ社会福祉事業法「改正」案に、「国や地方自治体の責任を大きく後退させる」として国会で唯一反対しました(二〇〇〇年五月)。昨年八月には、「障害者が安心して福祉サービスを利用できるように」と、支援費制度実施にあたっての要求を発表。今月十六日にはホームヘルプサービスの利用制限と補助金一般財源化の撤回を厚労省に申し入れるなど、障害者福祉の改善を求めてきました。(秋野幸子記者)
二十八日に厚生労働省が明らかにした「障害者ホームヘルプサービスに関する国庫補助金の取り扱いについて」の要旨と、「具体的基準」は次の通り。別表は、在宅障害者が支払う利用者負担額です。
1、国庫補助基準は、市町村にたいする補助金の交付基準であって、個々人の支給量の上限を定めるものではなく、市町村の支給決定を制約するものでない。
2、今回の国庫補助基準は、現在の平均的な利用状況を踏まえて設定するものであり、今後の利用状況等を踏まえ見直す。
3、基準の設定に当たっては、現在提供されているサービス水準が確保されるよう、円滑な移行を図ることとし、従前の国庫補助金を下回る市町村については、移行時において、原則として、従前額を確保する。
4、検討会をできるだけ早い時期に設置する。国庫補助基準については検討会において、その見直しの必要性について検証する。検討会の運営については、利用者の意向を配慮し、利用当事者の参加を求める。
5、今後とも、ホームヘルプサービスについては充実をはかるとともに、そのための予算の確保につき、最大限努力する。
■具体的基準
(1)一般の障害者
一月当たりおおむね二十五時間(69370円)
(2)視覚障害者等
一月当たりおおむね五十時間(107620円) 介護保険給付の対象者はおおむね二十五時間(38250円)
(3)全身性障害者
一月当たりおおむね百二十五時間(216940円) 同三十五時間(60740円)
久しぶりのぽかぽか陽気となった二十八日。東京・日比谷公園。全国から障害者と介助者五百人が集まりました。前日の雨でぬかるんだ地面に車いすの車輪をとられながら、「お疲れさん」「がんばろうね」と、二週間にわたったたたかいの労をねぎらい合います。
「支援費制度に上限を設けるな!」。十四日から連日、厚労省前は騒然とした空気に包まれました。国会議員への要請行動を担当している記者も二度にわたって取材。
電動車いすに毛布を何枚も重ね、みぞれまじりの日は雨がっぱですっぽりと体を覆った障害者が訴え続けていました。もよりの地下鉄霞ケ関駅は、「お客様が無事に乗り降りできるように」と応援の駅員も駆けつけ、ホームに二人組の駅員を何組も配置して応対。これにたいし厚労省は正面の門を閉め、トイレも一人ずつしか使わせないなど、みぞれ以上に冷たい対応でした。
報告集会に参加した東京・西東京市の伊藤雅文さん(32)は、「支援費制度は、障害者を施設から地域へというのが理念。地域での生活を脅かすような『上限』を、なぜ厚労省だけの判断で出してくるのか」と語りました。厚労省を動かした怒りの行動に、草の根の力を見る思いでした。(丸)