2003年2月2日(日)「しんぶん赤旗」
最近、公明党や自民党の幹部が景気対策に「インフレターゲット(インフレ目標)」を導入しろといっています。不景気なのに物価上昇をおこそうというこの議論、いったいどんなものなのでしょうか。
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普通、「インフレターゲット」というのは、物価上昇を抑えるために目標を決め、中央銀行(日本では日本銀行)が上昇率をその範囲内に抑えることを最優先に金融を調節する政策です。
ニュージーランドやカナダ、英国、スウェーデン、オーストラリアなどが実施しています。これらの国では導入前に、年率10%前後の高インフレがおきていました。(二〇〇〇年六月の日銀レポート)
公明党や自民党幹部がいっている「インフレターゲット」は、物価を下げるのではなく、上げるための目標を決めて、人為的に物価上昇を起こそうというものです。
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現在の物価下落の原因は何でしょうか。
物価下落は、基本的には(1)モノ(商品)そのものの価値の減少によるもの(2)モノの消費需要などが弱くて、その価値以下でしか売れなくなることによるもの(3)お札の価値の増加によるもの――の三つが原因です。(図)
竹中平蔵経済財政・金融担当相は、いまの物価下落について「金融的現象だ」(一月二十五日の記者会見)と発言。物価下落の原因をお札の価値の増加によるものと考えていることを示唆しています。
しかし、実際の物価下落は、国民の多くが実感しているように、国民の消費が落ち込んでいることが最大の原因です。長引く不況で所得は下がり、リストラの横行による失業の不安や社会保障改悪による将来への不安が、国民の消費を冷え込ませたのです。これに加えて、技術革新による生産性の向上や、安い輸入品の流入によるモノの価値の減少もあります。けっして竹中担当相がいうような「金融的現象」ではありません。
間違った原因の分析から出た「インフレターゲット」はどんな手段なのでしょうか。
お札の価値を減らす目的で、日銀は、ひたすらジャブジャブお札を民間銀行に供給します。そのために日銀は民間銀行から国債をどんどん買い上げることで、その代金としてお札をわたす手法をとっています。
これは法律(財政法)に事実上違反する脱法行為です。同法は第五条で、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない」と、日銀の国債(公債)引き受けや、政府の日銀からの借り入れを禁止しています。
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日本は、一九五〇年代はじめまで、一九三四―三六年を基準にすると三百倍を超すような悪性インフレを経験しました(図)。戦中戦後に戦費調達などのために日銀が国債を引き受けたためです。この苦い反省の上に財政法は日銀の国債引き受けを禁じているのです。
二〇〇一年に月額四千億円だった国債買い切りオペ(金融調節)は、すでに三倍の一兆二千億円(年間十四兆四千億円)になっています。国が発行した国債を民間銀行が買い、民間銀行から日銀が買い切るというお金の流れは、民間銀行を迂回(うかい)して、日銀が国債を引き受けることを意味します。
世界にも例がなく、悪性インフレという歴史の教訓にもそむく「インフレターゲット」は、金融政策としては邪道中の邪道なのです。速水総裁も「無謀な賭けをするようなもの」(一月二十四日の記者会見)といっています。
不況の中で「インフレターゲット」を実施すればどうなるでしょうか。モノの価値はそのままですから、国民の所得は実質減少、資産の預貯金も目減りします。長引く不況で大きな痛手を受けている国民生活に追いうちをかけることにしかなりません。これでは景気回復どころか日本経済を破滅に導くものです。
与党三党の幹部は最近、「インフレターゲット」について、そろって賛成の立場を表明、なかでも公明党の推進姿勢が突出しています。
こうした同党幹部の発言は「公明新聞」が連日のように一面トップで報道。その中で、「手をこまねいてデフレを放置する状況ではない」(一月二十三日の同党の石井啓一政調副会長の国会質問)と、消費不況による物価下落を口実に、その導入を主張したり、「長期国債の買い入れの増加(も検討すべきだ)」(一月二十六日のNHK番組での同党の北側一雄政調会長の発言)と、具体的方法として、国債買い切り額の増加などを主張したりしています。