2003年2月27日(木)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長は、二十六日放映されたCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、米・英・スペインによる武力行使容認決議案提出で緊迫するイラク問題、健保本人三割負担の問題などで質問に答えました。主なやりとりを紹介します。聞き手は、朝日新聞くらし・政治部記者の梶本章氏でした。(二十五日収録)
梶本 イラク問題がいよいよ大詰めを迎えて、国連を中心とした国際世論が大きく割れています。どちらかといえばアメリカ、イギリスが少数派ですけれども、どうみていらっしゃるのか聞かせてください。
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志位 イラクの大量破壊兵器の問題をどう解決するかについては、昨年十一月八日の国連安保理決議一四四一にもとづく、国連による査察が進められてきたわけです。そしてこの査察が有効で、効果をあげてきたわけです。
最近の(査察団の)ブリクス委員長の追加報告をみても、いわゆる「プロセス(手続き)における協力」は、イラクは十分にやっている。「実質における協力」についても、まだ問題は残るが、前向きの方向になってきている。イラクの協力姿勢について、問題は残るけれども、全体としては評価しながら、査察の有効性を訴え、継続を訴えるものになっています。
ですから査察を継続し、強化すれば、平和解決は可能だというのが圧倒的多数の国際世論であるわけです。安保理(の理事国)でもそうなる。安保理の公開の会合をやって、世界の六十二の国と機関が発言しましたが、そこでも圧倒的にそうなる。それは世界の声なんですが、アメリカがイギリスと一緒になって、ともかくこの査察を中断させてしまおうというところから出してきたのが、今度の決議案です。
梶本 フランスの方は「覚書」という形で、いまおっしゃったように査察を強化すれば、大量破壊兵器の問題は解決できるというような提案を出しているんですけれども…。
志位 米英案というのは、「イラクが決議一四四一が与えた最後の機会を逸したと決定する」と、もう査察は無意味だ、打ち切れということですね。査察を打ち切るということになれば、これはもう武力行使しかないということで、そこに事実上道を開くという内容になっているわけです。
それに対して、いまおっしゃられたように、フランスとドイツ、ロシア共同で「覚書」を安保理に提出して、この「覚書」には中国も支持を与えています。その中身をみますと、「査察体制によって平和的にこの目的を達成」すべきだ、「武力行使の条件は満たされていない」と(しています)。
査察について(「覚書」では)こう書いています。「査察はやっと全面的な軌道に乗ったところだ。妨害なく進んでいるし、顕著な結果を生み出している。イラク側の協力は改善されている。まだ完全に満足のいくものではないが、査察団長の最新の報告でもそのようにのべられている」――これで解決できるんだという、理性の声を示していると思いますね。この方向での解決をやるべきです。
梶本 そのアメリカの新しい決議案もだいたい三月の上旬ぐらいに採決となるといわれています。どういうふうな展開を予想されていますか。
志位 まず、ヨーロッパの中では、フランス、ドイツ、ロシア、こういう平和解決を目指す流れがあります。そして中国がこれに支持を与えている。
もう一つ注目すべきは、非同盟諸国首脳会議がいま、マレーシアのクアラルンプールでやられているんですね。ここで(マレーシアの)マハティール首相が演説をしていますが、一国覇権主義、一方的な武力行使へのきびしい反対の立場をのべています。そういう方向でのコミュニケ(共同声明)が採択されるであろうということです。ここに世界の多数の国々は集まっているわけです。
もう一つ私が注目している動きは、アラブ連盟の総会が開かれる、またイスラム諸国会議機構(OIC)の首脳会議が、カタールで三月四日、五日と開かれるのです。カタールというのは、アメリカがイラク攻撃の最前線司令部を置いているその場所です。そこでOICというイスラム諸国の五十七の国が参加している機構の首脳会議が開かれる。そういう形で国際世論は平和解決を求めている流れが強まっていると思います。
私は、この間の二月十四日、十五日とおこなわれた全世界六百都市、一千万人が参加したあのデモンストレーションというのは、本当にすばらしい歴史の進歩を感じますね。ベトナム戦争のときは、だいたい戦争が泥沼化する中で世界的な規模の反戦運動が起こった。今度は戦争が始まる前から起こっている。ベトナムのときは、正義の解放闘争をやっている、それへの連帯というものでもあったが、今度はもちろんフセイン連帯をやっているわけではないんですね。フセイン政権が問題のある政権だとみんなわかっているが、世界の平和のルールを守れと、この一点であれだけの運動が起こる。私は、これは現に(情勢を)動かしているし、今後に生きると思いますね。
非同盟の動き、OICの動き、ヨーロッパの動き、そしてそれを支えている民衆の動き、こういう全体の中で、どれだけアメリカの戦争の手を封じられるかというところだと思います。
志位氏は、武力行使を強引にすすめるアメリカの動機や思惑についての質問にも答えながら、日本政府の対応について問われ、つぎのように批判しました。
志位 国際舞台で(日本政府が)とっている対応は、もう明りょうです。すなわち、今度の米英による新決議案を支持するということを、政府は明言しています。
だいたい、(新決議案が)出る前から、原口(国連)大使が、国連安保理の席で、「新しい決議が必要だ」と提案したぐらいですから。
この(新決議案の)提案をやったのは、日本とオーストラリアだけですよ。本当に恥ずかしい提案をやったわけです。国際舞台では、要するに査察打ちきりに賛成している。ということは、事実上、武力行使を支持しているということと同じです。
そういうことをやっておきながら、国内では、「武力行使の支持じゃないんだ」というようなことで、ごまかしていますけれども、事柄は明りょうです。
ですから、パウエル国務長官がきても、(日本側に)最大限の感謝の言葉を言う。アメリカ政府高官の言葉として、「ブッシュ大統領が小泉首相と抱き合って、キスしたいぐらいだ」という新聞報道がありましたが、それぐらいアメリカの側からすれば、いま、国際的に圧倒的に孤立するなかで、わずかの国しか支持してくれない、その一つの国に、日本が入っている。恥ずかしい話です。
梶本 日本がアメリカの武力行使を支持するという方針を決めているのは、北朝鮮の問題があって、アメリカの支持をもらわないと後押しをもらえない。あるいは、アメリカが出てきてくれないと対応できないということがあるので、イラク問題についても、武力行使を積極的に支持しているんだという説がありますけれども、どうごらんになりますか。
志位 (日本政府が)どういう思惑で、どう動いているかは、私が、あれこれ言えないのですけれども、イラクへの攻撃を支持するという道を、ずっとこのまま日本が進みますと、北朝鮮との問題を、本当に平和的な話し合いで解決するうえでも、一つの障害をつくりますね。
イラクで、そういう戦争をやったら、こちらで戦争をやらないという理屈を、どこで立てるのかという問題が起こってきます。
北朝鮮の問題というのは、私は、核兵器の開発は、当然、国際社会、そして日本政府としても、これを止めるための最大の努力をする必要がある。しかし、その方法は、平和的な話し合いで、交渉による解決が必要です。これはもう、絶対に、戦争という手段を選んだらいけない。
これは、一九九四年の核危機のときにも、仮に戦争という手段を選んだら、おびただしい犠牲が、朝鮮半島の場合、地上戦が起こって出る。絶対これはやってはならないということを、韓国の当局者も、アメリカの当局者も、北朝鮮側もおそらく認識した。そういう危機のふちをみて、平和解決という方向で動いたわけですから。あのときは、カーター(元大統領)訪朝によって。
今度も、絶対に、北朝鮮の問題で、戦争の火ぶたを切るようなことを、許してはいけないし、あってはならないですね。そういうことを考えても、イラク問題で悪い前例をつくるということは、許してはいけないと思います。
梶本 これから、三月の上旬、下旬にかけて、ずっとこうした緊張した局面が続いていくと思うんですけれども、いろんなバリエーション(変化)が考えられるわけですけれども、例えば、国連のある程度、大義名分が与えられた形の武力行使になった場合、これを支持されますか。
志位 この問題の解決の方法は、私たちは、平和的な解決を追求すべきであって、国連の決定としても、軍事的な手段を選ぶべきではないと(いう立場です)。仮にそういう方向の決議ということになれば、やっぱり、そういう決議をやるべきではないという立場で、あくまで頑張ります。
梶本 くらしの問題ですけれども、今焦点になっているのは、四月一日からの医療費の自己負担。サラリーマンの本人負担が二割から三割に引き上げられるというのが、昨年の医療法改正で決められたわけですけれども、野党各党が、その凍結をはかろうという法案を出しました。これに踏み切った理由からまず説明をしてください。
志位 やはり、今度の三割負担―お年寄りの医療費を上げられたものを下げるということもわれわれは要求しているんですが―医療費の値上げというのは、まず何よりも必要な受診を抑制して、治療を中断して、国民の健康悪化につながる。すなわち、国民皆保険とはもういえない(状況になるからです)。
かかりたくても、お金の心配でお医者さんにかかれない――こういう状況を作り出すという点で、限度を超えた事態だということで、医師会のみなさんも反対する。野党四党も共同で凍結法案を出す。やっぱり限度を超えた、保険とはいえない負担の重さなんです。これが、一番大きな理由ですね。
梶本 負担ということをいいますと、例えば国保(に加入している)の自営業者の人たちは三割負担ですね。サラリーマンの人が二割負担。それを、低い方にあわせるということなんですけども、三割というのは、限度かどうか知りませんけど、自営業者の人たちは国保でやってた。そのへん(のバランス)が、どうなのかなと。
もう一つ、考えられるのは、やはり少子高齢化と経済の低迷で、非常に医療保険財政が苦しくなっている。そういう意味では、保険料を上げるか、自己負担を上げるか、なんらかの形で負担をしていかないと、保険財政がまかなえないという問題があるんではないかと思うんですけども、そのへんはどうでしょう。
志位 この前、党首討論で、その問題をとりあげたんです。
政府は必ず、「国保は三割(負担)、だから三割にあわせるんだ」ということをいうわけですが、私はその国保の三割負担の実態はどうなっているかと調べてみたんです。
調べてみて驚いたのは、高額療養費という制度がありますでしょう。すなわち、自己負担を超える高額になった場合に、その分は全額保険から給付されるという制度ですけれども、この高額療養費をどのくらい使っているかということを調べてみたんです。そうしますと、政管健保でみますと、だいたい(年間で)百人あたり三件です。それに対して国保をみますと、百人あたり十八件です。
高額療養費というのは、いわば病気が重症化する率なんですけども、重症化する率が六倍も、国保の方が高いんですね。
もちろん国保の場合、自営業者の方など、入っている方々のおかれている仕事の条件などあるでしょうけれど、やはり三割負担が重すぎて、この負担の重さからお医者さんにいくのを我慢して、ぎりぎりまで我慢して、手遅れになっちゃう場合もあるし、重症化する場合が多い。ですから、国保の三割というのは重すぎるんです。
志位 実はこれには経過がありまして、一九八四年に健保本人負担を導入したことがありましたでしょう。
梶本 一割負担から始まったわけです。
志位 そのときは、「本則二割」(本則は二割負担だが実施時期を明らかにしなかった)ということで始めたわけですけども、このときに政府の側は、国保も(自己負担を)二割に下げるというのを約束したんですよ。二割で統一すると。これが八四年の約束なんです。そのときに、法律にまで、国保の方も二割に下げますよということを書きこんだ。
国保の三割を二割にするということとの引きかえで、健保の本人負担を導入したんですよ。これでずっときたわけですから、もし合わせるというのだったら、国保の方を二割に下げるべきだと(思います)。
志位 財政の問題についていいますと、私は、二つ問題があると思うんです。
一つは、治療の抑制、重症化ということになると、それが健康保険を圧迫する要因になるんですよ。私は国保と健保を比べてみましたら、政管健保に比べて国保は一人あたりの医療費は一・三倍ですよ。重症化がそれだけ多いと、医療費もかさむ。だから、自己負担で重症化になれば、医療保険の土台が崩れるという問題があるんです。
もう一つの面は、国庫負担をどんどん下げてきたという問題があるんです。例えば政管健保についていいますと、一九九二年に政管健保が黒字だったことがあるんですよ。このときに、黒字を理由に国庫負担率を16・4%から13%まで下げちゃったんです。そのさい政府は、「赤字になったら、国庫負担率をもとに戻します」という約束をしたんです。ところが、その約束を忘れたかのようにして、赤字だから健保も負担増だというふうにいうわけですけれども、やっぱり国がきちんと財政的支出をやるべきだ(と思います)。
志位 私はこの前の予算委員会(の質疑)で、サミット七カ国で比較してみたのです。OECD(経済協力開発機構)とILO(国際労働機関)の調査なんですけれども、国と地方の税収に占める社会保障の支出の割合は、日本が一番少ないわけですよ。22%です。ほかの国は、だいたい三割、四割、五割、六割になるところもある。そういう状況なのに、日本だけ22%ですよ。
これは、国と地方で、だいたい四十五兆から五十兆という税金を公共事業につぎ込んで社会保障の方はまずしい、この逆立ちした状況がもたらしているわけですから、ここを転換しようじゃないか、財政の問題も(再建に)道筋をつけようじゃないかということを提案しています。
梶本 政府・与党は三月末までに、医療費の抜本改革案をだすといって案をつくっている途中ですけれども、共産党が考えられる抜本改革というのは、どういう形になりますか。
志位 まずきちんと国が医療に対する負担責任を果たすというのが一つです。それにはやっぱり国の全体の財政のなかで巨大開発の無駄遣いを削って、そっち(社会保障)に回すということが一つですね。
それから、医療の内部の改革としては、以前から薬剤費が高すぎるという問題を問題にしてきました。九七年と比較しますと、薬剤費がだいたい一・二兆円減っているんですけど、中身を見ますと、いわゆる薬価差益といわれる部分がそのうちの〇・八兆円なんですよ。薬価の本体は、十分に切りこまれていないのです。やっぱり製薬会社に大もうけさせている高薬価の構造、高すぎる薬剤費の構造に、本格的なメスを入れていく。そういう両面での浪費にメスを入れて、財政をつくりだすということが、本当の改革だと思っています。
梶本 社会保障の財源をどうするのかというのが大問題になって、自民党の中では消費税(増税)を考えなけりゃいけないんじゃないかという議論が出てきていますけれども、そのへんの動きはどうでしょうか。
志位 それはもちろん反対です。消費税というものの、一番大きな問題というのは、逆累進性―すなわち所得の少ない方に重くのしかかるという、それ自体が社会保障の理念を破壊する、福祉を破壊する税金ですから、ここに税源を求めるというのは反対です。
私たちは、まずさっきいった無駄遣いをなくす。これは、優先的にとりくむべきですし、そのうえにたって、歳入を考えるんだったら、応能負担―すなわち負担能力に応じた税と社会保険料の負担という、そういう累進構造にきちんと再構築するという方向での、税と社会保障の負担のあり方ということを考えなければならないと思っております。